第3章 ボクらの記憶
その翌日、赤司が昼頃に苗字の病室に来ると、彼女は昨日と変わらずずっとポロポロと涙を零しており、このままでは彼女の中から水分が無くなるんじゃないかと少し困っていた
しかし、彼女の母親には彼女の涙が見えないらしく、見えているのはとりあえず今の所昨日来たメンツだけだと彼は理解していた
「なんでそんなに泣いているんだ」
そう言いながら彼は彼女の涙を拭い、花瓶に水を入れてから持っていた花束をいつものように入れて水を変え始めた
1日でものすごい量が増えていく事に「お前は本当に人気者なんだね」と赤司は苦笑いを浮かべて言ってから「少し、嫉妬してしまうよ」とポツリ呟いた
「この花、プリザードフラワーにしようか」
そう呟いた彼はゆっくりと笑みを浮かべ、花を1つ1つ見てから「今度使用人に頼むように頼んでおくよ」と言って花をまとめた
それから彼は苗字に近づいて様子を見てから彼女の髪を撫で、ゆっくりと唇を落とした
そして彼女の手を取ると爪が伸びていることに気づき、確か…と引き出しから爪切りを出してパチパチと、切り始めた
「お前の手は、綺麗だね」
彼がそう彼女の手を見ながら言うと、随分と前に「征十郎の方が綺麗だよ」と何かで言われたことを思い出して目を見開いた
懐かしそうに目を閉じると、彼は反対側に回って今度は左手の爪を切り始めた
それが終わると彼は「やっぱり…お前のほうが綺麗だよ」と呟いてから枕元を見てみると、枕は涙でとても濡れていた
「枕、取り替えてもらおうか」
そう呟いた彼は彼女の後頭部に手を回してから持ち上げ、枕をとって元の位置へと戻した
涙によって濡れている枕は普段よりも重みがあったがそれでも軽いもので、赤司は枕を軽く叩いてから「少々席を外す」と言って彼女の病室を出て行った
それに反応したかのように彼女の瞼がピクッと動くと、ゆっくりと目を開けた
彼女はようやく、目を覚ました