第14章 冒険に行こう
少ししんみりする雰囲気を感じ取った苗字は言葉を失う
気分を悪くさせてしまっただろうかと不安に思っていると、赤司が顔を上げた
「ところで他の人には何か買ったのかい?」
『あ、火神君には成績向上のお守り買ったよ。勝負運は既に強そうだしね』
「そうだね、オレに勝ったくらいだ」
『あと雪さん達に健康のお守り買ったくらいかな?
さつきちゃんには可愛いストラップ買ったんだ』
彼女の脳裏にウサギをモチーフにしたピンク色のストラップを思い浮かべる
火神へのプレゼント選びに付き合ってもらったり、よくやり取りして持っているのだ。お礼のお土産としては重くないだろう
楽しそうに笑う彼女の表情は、当たり前だが赤司が想いを寄せる人と全く一緒で彼女と重ねてしまう
「…やはりオレはまだ、名前のことが好きみたいだね」
その瞬間、電車が彼らの間の空気を引き裂くようにガタガタと車体を揺らしレールの上を走ってくる
彼の溢れ出たしまった想いは目の前を横切る電車の音に掻き消され、苗字の耳には届かない
だが彼の声が何か言ってるのだけは分かる。電車が起こす風に髪をなびかせながら赤司のことを見た
『ごめんね、電車の音で聞こえなくて』
「ああ、この時間だと空いてるから確実に座れるなって言っただけだよ」
『そうだね、ガラガラ』
「足元気をつけて」
『赤司君、私子供じゃないから大丈夫だよ』
冗談混じりに笑いながら言った苗字を1番端に座らせた赤司はその隣に座る
スマホで到着予定時間を確認していると隣に座る彼女が目をこすっているのが視界の端に映った
『なんか、眠いや』
「疲れたんだろう、着くまで寝てるといい」
『うん。でもすごい楽しかったよ』
「それは良かった」
ゆっくりと瞼を閉じる苗字は気づいたら赤司の方に寄りかかり静かに寝息をたてる
「おやすみ、名前」