第14章 冒険に行こう
いきなりこんな京都まで来て、慣れてない人に囲まれて疲れたのだろうと、赤司は少し申し訳ない気持ちになり、思わず彼女の頭を撫でてしまう
「…何なんだろうな」
流石にこんな所で寝かせておく訳にはいかないと、運ぶため彼女を一度倒し横に抱き、持ち上げる
彼女の近くに落ちていた不透明な袋を腕に通し、歩き出す
部屋はそれほどの距離でもないが歩いていると、腕の中の彼女が動いていることに気づく
運ばれることで目が覚めたのか、彼女が目を擦っていた
火神という彼氏が居るのだ。こちらから謝った方が彼女も気にしないだろうと赤司は足を止める
「すまない、起こしては悪いと思って」
『せいじゅ、ろ?』
ふと耳に馴染んだ呼ばれ方に彼女を見ると、薄ら開いた瞳からオレンジ色が覗いていた
言葉が出てこなかった。目頭と心がグッと熱くなって、何を言えばいいのか分からなくなってしまう
口から出てきたのは、彼女の名前だけだった
「名前」
『なんか、眠い』
彼女の様子で完全に戻ってきた訳では無いのだと、何となく赤司は悟る
もう一度寝てしまえば、きっと彼女の目の色は藍色に変わってしまう
だからと言って無理に起こしておくなんてことは、流石に出来ない
「……おやすみ、名前」
『…うん』
「良い、夢を」
『征十郎も、ね』
彼女の瞼がとじ、再び規則的な呼吸が始まる
悔しい気持ちと、苗字が彼女の中にちゃんと存在していることが分かり、腕に力が籠り自分の方へ彼女の身体をより近づける
そんな腕の中にいる起きない彼女に、彼からの水滴が落ちていく
「…行こうか」
気持ちを落ち着かせて彼女の部屋に向かい、苗字をベッドに下ろし、目元の水を拭い布団をかけ、眠る彼女を少しの間見つめる
「待っていてくれ、名前」
その決意の固さを伝えるように彼女の手を強く握りしめ、彼は目を赤くしながら部屋を去っていく
その様子はまるで春の病室のようだった