第14章 冒険に行こう
「お前、幽体離脱したことある?」
『……ゆーたいりだつ?』
「ああ」
『私の記憶上は、ないです』
汗をタオルで拭いながらこちらに問いかけてくる黛の目は真剣だが、ふざけているのではないかと苗字は困惑する
そもそも苗字自身が持ってる記憶も正しい記憶では無いのだから、これも幽体離脱の1種なのかと考える
もしかしたら本当の人格が幽体離脱していて、その代わりにこの記憶が入ったのではなどと考えていると、口に出ていたのか黛に否定されてしまう
『黛さんはあるんですか?幽体離脱』
「あるわけないだろ」
『なんで聞いたんですか?』
すると彼は考え始める。視線の先では赤司が在校生を前にドリブルをしている
そのうち在校生はバランスを崩して尻もちを着いてしまい、赤司に簡単に抜かれてしまう
「どっかで願ってたんだろうな」
『願い?』
「ま、諦めてんだけどな」
『…諦め?』
彼の言ってる事が理解できない苗字は眉を寄せ首を傾げ始める
彼女の表情に黛がフッと笑っていた
「独り言だ、気にするな」
『…じゃあ、気にしません』
「今話した内容赤司に言うなよ」
『え?』
「言うなよ」
『承知しました』
ずっと前を見ていた黛が苗字の方を向いて優しく笑った
それは一瞬の出来事で見間違いじゃないかとも思うが、恐らく彼は笑っていたと思う
ピーッと笛の音が鳴り、コートを見ると赤司がゴールを決めている
青峰や火神ほど分かりやすくは無いが、表情は楽しそうだ