第13章 夏祭り 後編
夢を見ている気がする。起きなきゃ行けないんだけど、眠い
目をうっすら開けて真っ白な天井を確認し、また目を閉じる
ああそろそろ起きなくちゃ。でも現実を受け入れたくないな
『…げんじつ?』
現実ってなんだっけ、どんなだっけ
でも起きれば現実に戻るのだけは分かる。それはいやだな。ずっと、夢の世界にいたいな
「君はそのまま、寝てれば良いんだよ」
ふと声がする。声がする方へ薄目を開けると、犬がいた
『ねる…?』
「そう、僕と一緒に。大事な物を守るため」
『だいじなもの?』
大事なものってなんだっけ、忘れてるなら大事じゃないのかも
でも、ぱっと赤いものが思い浮かんだ
『り、んごあめ』
それだけ浮かんだ。美味しいのだけ、知っている
「夢の中で食べればいいじゃないか。彼と一緒に」
『…かれ?』
彼って誰だっけと考えていると、眠気が襲ってきた
ああ、また夢が私を迎えに来たんだ
起きなきゃいけないのに、眠気に負けてしまう
「眠いんだね、おやすみ」
『でも、おきないと…』
「まだ大丈夫だ」
『…お、やすみ』
犬にそう言われ目を閉じる。ああ、この頭を撫でられる感覚すきだな。優しいこの、感じ
目を閉じた彼女の頭を撫でている彼は今、犬ではなく人の姿をしている。しかし彼女からは犬にしか見えない
それに対し彼は何も言わないし、自分から何か言うつもりもない
「このまま二人っきりっていうのも、なかなか面白いんだけどね」
彼女の顔にかかるオレンジ色の髪を耳にかけて、言う
「寝てるだけの姿も飽きてしまったよ」
彼は彼女の横に寝っ転がり、次に彼女が目を覚ますのがいつなのか、心待ちにしながらそっと目を閉じた
「君のことは僕が守るよ」