第13章 夏祭り 後編
ふと視線を感じて、その方向を見るとベンチに座っている赤司がこちらを見ていた
水が溜まったバケツに花火を入れて、赤司へ向かって歩き出し隣に座る
なぜそんな行動を彼女が取ったのかは本人も分からないが、彼を1人にしてはいけない気がした
『赤司君、花火しないの?』
「いや、あの輪の中は危ないと思ってね」
『それは間違いないけど…』
「名前は戻らなくていいのかい?」
『うーん、まだちょっと疲れちゃってるのかなぁ』
へへ。と嘘では無いことを笑いながら言う彼女に、「そうか」とだけ赤司は返して置型吹き出し花火で遊ぶ彼らを見つめている
そんな彼を横目で見たあと、また苗字は口を開く
『あと赤司君に、お礼言ってないなって』
「お礼?」
『りんご飴買った時の、やつ』
「ああ、あれか」
『うん。改めてありがとうございました』
「オレが一番最初に気づいただけだよ。気にしなくていい」
赤司の瞳がようやく苗字を向いた
花火の光によってぼんやり照らされている彼の表情はどこか悲しそうで、なんて声をかけたら良いのか分からない
話題がないかと探していると赤司が苗字の手に何かを置く。個包装の飴のようだ
『なにこれ』
「口の中でぱちぱちする飴だ」
『ぱちぱちする飴?』
彼の口からぱちぱちが出てきたことに笑いそうになったが何とか抑え、貰った飴を口の中に入れる
最初は普通だったが口の中で弾けて、赤司の言う通りぱちぱちし始めて苗字は目を丸くする
『わ、ほんとだ。変な感じ』
「2つしか貰えなかったからね、皆には秘密にしてくれるかい?」
『わかった内緒ね』
苗字は楽しそうに笑った。そんな笑顔の彼女を見て赤司はまた彼女から目をそらしてしまった