第12章 夏祭り 前編
姿見の前に立って、自分とにらめっこをする
何度鏡の前でクルクル回っても、似合っているのか自分では分からない
何周したか分からないところで携帯から通知音が鳴る
開くと、"着いた"とぶっきらぼうなメッセージが届いていた
急いで桃井が選んでくれた白い髪飾りをぶっ刺し、玄関を出て扉を開けると浴衣姿の火神が少し照れくさそうに待っていた
「おす」
『お、待たせしました…』
黒色の浴衣を身に纏う火神の姿はなんとなくいつもの雰囲気が違くてドキドキしてしまう
何となく直視が出来なくてちらりと見ると、この間会った時より肌が赤くなってる気がした
『火神君、日に焼けた?』
「あー、今週は外練とバスケばっかしてたからな」
『勉強は……』
「聞こえねぇなー…」
『…火神君』
「苗字は?夏休みなんかやってんのか」
『実はね、バイトしてる』
「どこでだ?」
『データ入力とか、模試の試験監督とか
家で出来たり短期でいけるやつばっかりだよ』
「へぇ、良くやるなぁ」
『この時期しかできないからね』
へへっと笑う苗字に火神も笑う
歩みを進めていくと、彼女たちと同じ浴衣姿の人がどんどん増えていく
服装だけで目的地は一緒なのだろうと分かってしまう
『なんか、わくわくする』
「おう、そうだなぁ」
火神が苗字の背中をぽんぽんと優しく叩く
何だかそれが嬉しくて、口元が勝手に笑っていた