第11章 溶けていくもの
そんなこんなで、またそのキーケースの前に戻ってきてしまった
『むーん…』
「結局戻ってきちゃったね」
見れば見るほど火神を彷彿させるそれは彼女の心を揺らす
自分の好みひとつで決めていいものかとも悩むが、彼が持っている姿を見てしっくり来てしまうのである
「決めちゃえば?」
『うーん、火神君に似合うかなぁ』
「似合うよ!大丈夫!」
『喜んでくれるかなぁ…』
「名前ちゃんがあげるものならなんでも喜ぶよ!」
『そっかなぁ…』
不安そうに見つめる彼女だが、それ以外に目を向けようとしない
言わずもがなそれを購入したのだが、最後の最後まで喜んでくれるかを心配していた
ラッピングに若干時間がかかるとの事なので、渡された番号札が呼ばれるまでの間再度桃井と店内散策をすることになった
「そういえば浴衣の髪飾りも新しく買ってもいいかなー」
『髪飾りだったらこっちじゃないかな?』
「ほんとだ!なんかいいのあるかな~」
和風な髪飾りを見て回る桃井にはついて行かず、普段使いできそうなアクセサリーや髪飾りを見て回る
その時たまたま目に入ったのは赤いカチューシャだった
『…赤いカチューシャ?』
特に持っていた覚えは無いし、最近誰かが着けていた覚えもない
だがシンプルなそれはやけに心をざわつかせる
「名前ちゃーん!見て!似合いそうだよ!」
ふと、桃井からの声で我に返った
彼女の手には白色の花を模した髪飾りが握られていた
それを彼女は苗字の髪にあてて、にっこり笑った
「うん!やっぱ似合う!」
『…じゃあ折角だし、新しいの買っちゃおうかな』
「ほんとに!?嬉しい!今度つけてきてね!」
ついつい彼女が可愛くておすすめされたものを買ってしまう
2度目のレジに店員さんとのちょっとの気まずさはあるが、すぐ忘れるものだと言い聞かせる
そうしているうちにラッピングが終わり番号札と同じ数字が呼ばれ、綺麗に包まれた火神へのプレゼントを大事そうにカバンへ仕舞った