第10章 【underground】
地下牢の教室まで、器材と教科書を入れた大なべを抱えながら狭い階段を下りるのは思ったより苦労がいる。しかもクリスの場合、身の丈以上の召喚の杖まで持ち歩かなければならなかったので、ハリーやロン以上に苦戦して教室に入らなければならなかった。しかも教室に入ったら入ったで、予想通り今度はドラコという障害が待ち構えていた。
「感心しないなクリス、いつまでこんな連中と付き合ってるつもりだ」
「ドラコには関係ない」
「関係なくはない、僕と君は将来――」
「う・る・さ・い!」
クリスがハリーやロンと一緒に教室に入ってきたのが気に食わないらしく、ドラコは開口一番から説教じみていた。そんなヤツと話す気はさらさらないクリスは怒りをこめて言い放つと、さっさとグリフィンドール生の集まるテーブルに移動した。
かたや、一方的に話しを打ち切られたドラコは、再びクリスに声をかけようと近づこうとしたが、タイミング良く先生が入ってきたので、ドラコは席に付かざるを得なくなってしまった。
早足で机と机の間をすり抜け、無言で教壇に立つ教師の姿を見た瞬間、クリスはのど元に石ころが詰まったような圧迫と緊張を感じ、反射的に背筋を正した。黒ずくめのローブに、鬱陶しく目に掛かる黒髪、額に寄せられたシワと他人を寄せ付けようとしない雰囲気。パッと見だが、それが父親と重なって見えたのだ。
このスネイプ先生という人はマクゴナガル先生同様、もしかしたらそれ以上に生徒を黙らせる能力の持ち主かもしれない。たったの一睨みだけで、クリスだけではなく他の生徒もとっさに背筋を正し、言葉を途絶えさせてしまった。
「まずは出席を取る」
薄暗い地下牢の教室に響くスネイプの声は、父よりも低い。年の頃は同い年かそれ以下だと思われるが、父と違い憎しみをはらんだ様な喉を圧し通る声は、新入生に恐ろしい印象を与えるには十分だった。
ほとんどの生徒の場合スネイプは顔を上げずに淡々と名簿を読み上げたが、クリスの名前を呼んだとき、一瞬顔を上げずに視線だけをこちらに向けた。