第36章 【痣の秘密】
扉を開け、クリスが見たもの。それは――
「クィレル先生!!?」
クリスは驚きを隠せなかった。何故、どうしてここにクィレル先生がいるのだろう。いや、そもそも本当にあれはクィレル先生なのだろうか。いつものオドオドとした雰囲気は一切なく、邪悪な顔つきで自分の焼け爛れた手を見つめている。そして一番不可解だったのが、ターバンを外した後頭部に蠢く、もう一つの顔だった。
「なんだ、これ……いったいどうなってるんだ?」
「クリスッ!!」
ハリーが叫ぶのと同時に何かが飛んできた。反射的にそれをキャッチすると、手の中に固い感触が伝わり、指の間からなにやら赤い物が見える。――賢者の石だ。
クリスが目を白黒させていると、ハリーが続けざまに叫んだ。大きな姿見の前で四つんばい倒れ、額のキズを抑えている。
「クリス、それを持ってダンブルドアのところに行くんだ!スネイプじゃなかった、クィレルが『例のあの人』の手先だったんだ!!」
「そうは行かぬぞ、小僧」
クィレルの頭にある顔が喋った。クィレルのものとは全く違う、地の底から響くような不気味な声にクリスは心底寒気がして体が震えてきた。これとは係わるなと、全身が警告している。
男はクリスを見ると、蛇のような顔をニヤリと歪ませた。
「久しぶりだな、召喚師の小娘、そしてそれがお前の精霊か。まさかその年で精霊を召喚できようとは……やはり血か。だがこれで手間が省けた。さあ娘よ、その石を渡せ。こちらに来るのだ」
顔の男が喋ると、またも左手の痣が焼き焦げるように熱くなってきた。同じだ、禁じられた森でユニコーンの血をすすっていたあの「影のようなもの」と出会った時と、全く同じ感覚。
クリスは苦痛に顔をゆがめた。間違いなくこいつだ、クィレルと同化しているこの男こそ森で出会った「影のようなもの」であり『例のあの人』だったんだ。
どうしてスネイプじゃなかったのか、どうしてクィレルが『例のあの人』と一緒にいるのか、それはクリスには全く分からなかったが、唯一つ、クリスにもハッキリしている事があった。
「さあ、賢者の石を渡せ!」
「渡しちゃ駄目だ、逃げるんだクリス!君だけでも逃げてくれ!」
「悪いがそんな頼みは聞けないな――ウィンディーネ!!」