第35章 【水の精霊ウィンディーネ】
例え言葉は発せなくとも、心の繋がったクリスにはウィンディーネの気持ちが手に取るように分かった。そして心だけでなく、ウィンディーネの力がクリスの全身を包み込んでいる。今やクリスの心と体の全てが、ウィンディーネと一つに繋がっていた。
「ウィンディーネ!この扉の炎を消してくれ」
ウィンディーネが頷き金の矛を掲げると、それに連鎖して召喚の杖が一瞬光り、どこからともなく出現した水の塊が紫色の炎を跡形もなく打ち消した。突破不可能と思われた難所が、いともあっさり片付いてしまい、クリス達はその能力に驚いて声も出なかった。
流石は自然界の頂点に立つ者とされるだけはある。人間の作り出した魔法を打ち消すなど、彼女らにとっては容易い事なのだろう。その力が自分の中にあるのだと思うと、クリスは少し怖くなった。だが反対にこれ以上頼もしい味方もいまい。
クリスは杖を握りなおすと、ロンとハーマイオニーの方を振り返った。
「それじゃあ私は行くぞ。ハーマイオニーは例の方法でダンブルドア校長に手紙を送ってくれ」
「ええ分かったわ。ハリーの事は頼んだわよ」
「頼むから、無茶だけはするなよ」
「ああ、約束する。必ず2人で生きて帰ってくるよ」
最後にロンとハーマイオニーに向かって笑いかけると、クリスはウィンディーネを連れ駆け足で隣の部屋に入った。するとハーマイオニーの言っていた通り、部屋の中には1つの長机があり、その上に大小さまざまな薬と紙が並べられている。成るほど、いかにもスネイプらしい仕掛けだ。そしてその部屋の奥にも、やはり不気味な黒い炎に包まれた扉があった。クリスが杖を構えた、その時――
「ギャアアアアァァァ!!」
「ぐわあああああぁああ!!」
背筋も凍るような悲鳴が2つ聞こえた。1つは間違いなく、ハリーの声だった。扉の奥から、もだえ苦しみ叫び声が連続して響いてくる。いったい中で何が起こっているのだろう、クリスの中に絶望と緊張が走る。
「ウィンディーネ、頼む!」
ウィンディーネが再び矛を振り上げ、黒い炎を消し去った。頼む、間に合ってくれ。クリスが一筋の希望を手に、次の部屋への扉を開けた。そこでクリスが見たもの、それは――