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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第2章 【大切な話し】


 クリスは寝っころがったまま文面を何度も撫で、その度に心の中で憧れの人の名前を呟いた。
 強く、不思議な力を持ち、たった1歳で己が運命に抗ったマグル育ちの少年ハリー・ポッター。一体どんな人なんだろうか。その姿を思い浮かべようとするだけでなんだか胸が楽になるような、落ち着かないような少し変な心地がする。

 きっと髪は知的な黒髪だろう。それに大きく優しそうな茶色の瞳と、爽やかに微笑む口元。そして穏やかな声に秘められた堅強な意志と頼もしさ。間違っても派手なプラチナ・ブロンドに意地悪そうなツリ目 。人を小ばかにしたように笑う薄い唇に、傲慢な口調の憎きかの人とは、似ても似つかぬ人であって欲しい。
 と、こんな風に己の願望を詰め込みながらも、まだ見ぬ憧れの人の姿を想像するのが、クリスの密かな楽しみだった。しかしその妄想がもうすぐ現実のものになろうとしているのだ。ホグワーツに行けば、晴れてハリー・ポッターとクリスは同級生になる。万が一、他の子供に許可証が届かない事はあっても、まさかハリー・ポッターに届かないなんてことはないだろう。

 同じ寮にはなれないかもしれないけれど、もしかしたら図書館などで顔をあわせる事があるかもしれない。合同授業で、運良く話すことが出来るかもしれない。そう考えただけでホグワーツに行くのが俄然楽しみになってしまうのだから、自分でもなんて現金なんだろうと少し呆れる。

「ハリー、ハリー、ハリー・ポッター……――」

 他では滅多に見せないやわらかな微笑を浮かべながら、
クリスは静かに目を閉じた。まだ婚約のことを考えると怒りは湧いてくるが、もう部屋に閉じこもって悶々とした生活を送ろうとは思わない。それはきっと、自分を加護してくれるこのぬくもりと、まだ見ぬあの人のおかげだろう。

「敬愛する母様、そしてハリー・ポッター。私はあなた達に恥じぬ人になりたい」

 優しい風が体を包み、葉のささやきが耳をくすぐる。例えチャンドラーがぐうたらだなんだと口うるさく叱っても、クリスはこうやって自然を感じながら眠るのが一番好きだ。
 まるで風の中を舞う花びらのように、クリスの心からの言の葉は風そよぐ晩夏の午後に流れて消えていった。
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