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ハリー・ポッターと小さな召喚士

第15章 【不安と焦燥】


「顔を上げて胸を張れクリス、君は正統な召喚師の血を持つ者だ。それに不安を感じる事もあるだろうけど、それは僕だって同じだ、もちろん他の連中だってそうさ。誰だって先のことを考えて、不安を感じない人間なんていやしない。だけど止まる事は許されない、ましてやそれを投げ出すなんて持っての外だ。とにかく持って生まれた以上、突き進むしかない。どんなに辛かろうが血反吐を吐こうが、やり遂げなくちゃならないんだ。そうだろう?召喚師、クリス・グレイン!」

 ドラコの目を見つめ返しながら、クリスは何も言えずにただ首を縦に振った。言いたい事は全部言い終わったのか、ドラコはクリスの肩から手を離すと何も言わずにまた廊下を歩き出し、クリスもその後に続いた。

歩きながら、クリスは生まれて初めて召喚の杖を手にした日を思い出していた。あのときはまだ4歳だったので今のように簡単に杖を持つ事さえ出来なかったが、それでも、杖に触れどこか懐かしいと感じたことと、母とつながっている証だと教えてもらった時のあのこみ上げてくる幸福感は、今のクリスという人間を作るのに大きな影響を及ぼすほど衝撃的だった。
 どうしてそれを忘れてしまっていたんだろうか。あの時から、誰よりも召喚の力と血に魅かれていたのは自分自身だったというのに。

 クリスが腕の中にある杖をぎゅっと握ると、それだけでほのかな温もりが伝わってくる。最近はそれに慣れすぎてしまっていたのが良くなかったのだろう。何も不安になることは無い、彼らはこんなにも近くでクリスを護り、力を与えてくれるのだ。

 顔を上げると、すぐにドラコの背中が目に入った。クリスは思わずその背中をじっと見つめてしまった。いつもと変わらないはずなのに、目の前にあるドラコの背中が今日に限って少し大きく、そして決して背筋を曲げずに前を向いて歩くドラコの姿が何故か頼もしく見える。
 クリスは1歩後ろからその背中に向かって声をかけた。

「ありがとうドラコ、なんだか少し胸が軽くなった」
「もうあんな腑抜けた言葉、君の口から聞きたくないぞ」
「大丈夫だって」

 クリスはわざと大またで歩いてドラコを追い抜かすと、振り返って得意げな笑みを見せた。

「立ち止まって遅れた分は、こうやって取り返すさ」
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