第15章 【不安と焦燥】
真夜中の大脱走の日を迎えてから、ホグワーツでの日々は矢のように過ぎていった。というのもあの三頭犬が守っている物を調べるため、クリスは暇さえあれば図書館に通い、閉館時刻まで夢中になって書物を漁り、夜も寝る間を惜しんで分厚い図鑑や古い事典を読みふける日ばかり送っていたからだ。それどころか図書館から持ってきた本を、授業中にこっそり読むことすらあった。
しかしそこまでやっても、三頭犬が守っている物が何なのか突き止めることが出来なかった。そうして1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、1ヶ月が過ぎても見つからず、いつしかクリスはまるで何かに急き立てられるように本を読み漁るようになっていた。
「これも駄目だ……」
黄ばんだページをめくり終え、色あせた表紙を閉じるとクリスはその上に突っ伏した。この1ヶ月しらみつぶしに本を調べていったが、それらしき物は見つからない。世界でもまたとないほど貴重で、召喚の杖が反応し、魔法ないしそれ以外の力を秘め、5センチ四方の包みに入るほどの大きさという条件に当てはまる物なんて無いに等しい。
見つかったものといえば古い偉人の使っていた杖だとか、死人を蘇らせる石とか、とても貴重で強い魔力を秘めていても、大きさが30センチ近くあって条件から外れるものが大多数を占めている。
他にも特別な力を引き出す矢尻というのもあったが、これは意外に数が多い。あとは一応全ての条件を満たす「空に浮かぶ石」というのもあるが、はたしてそれがグリンゴッツに進入してまで手に入れる価値があるのかどうか、首をかしげる。物を空に浮かせたいのなら、そんな石など使わず魔法を使えば済むことだ。
「早く……早くなんとかしなきゃいけないのに……」
クリス は焦っていた。記憶が正しければ、校長は歓迎会の日に「“今学期中は”4階の廊下に入らないように」と言っていたはずだ。と言う事は来年も同じ場所にあるとは考えられない、もしかしたら校外に移される可能性だってある。そうなってしまったらもう手の出しようが無い。
だから1日でも早くその正体を突き止めたいのに、まるでクリスの努力を嘲笑うかのように手がかり1つ見つからなかった。
「ああくそっ!やっぱりこんな所にある本じゃ見つかるわけないんだ!」