第14章 【波乱の幕開け】
「違うよ、ただ家に人生を左右されるのが嫌なんだ。私は自分の事は自分で決めたいだけだ」
「それじゃあ、クリスは自分の家を捨てるって言うのかい?自分のわがままを通すために」
「そうじゃない……そうじゃなくて私は……」
やはりドラコには到底分からない理屈だろう。家名を誇りにし、家を継ぐ事が絶対とされている者にとってのクリス言い分は子供じみたわがままにしか聞こえない。しかしだからといって、クリスに大人になって聞き分けろというのもかなり一方的だ。
お互いの主義主張が違っては、いくら話し合っても無駄だと感じたクリスは席を立った。
「授業も始まるし、もう行くよ。話しはまた今度にしよう」
「クリス、今年のクリスマスはホグワーツに残るって事はないよな?父上も母上も君が来るのを楽しみにしてるぞ」
クリスは何も答えず、代わりにドラコに向かって微笑んだ。ただそれだけだったが、ドラコは引き止める事も、それ以上なにも言おうとはしなかった。
グリフィンドールへの談話室に向かう廊下を歩きながら、クリスはもう1度ドラコに言われた事を頭の中で反芻した。だがどんなに考え直しても、マルフォイ家に嫁ぐという答えは出てこない。確かに好きな人がいるわけでもないが、ドラコとは性別も関係ないほど小さい頃から一緒にいたから、異性として見るには近くにいすぎる。そして幼いながらも恋愛感情というものが芽生え始めた頃から、クリスにはずっと憧れの人がいた。
「――あっ待ったディーン、穂先をあんまりいじくらないで。……当たり前だよ、学校のヤツと比べないでよ。えっ、シェーマスも乗ってみたいの?駄目だよ最初はロンにって約束したんだ――あ、クリスお帰り。大丈夫だった?」
談話室の扉を開けてすぐに目に入ったのは、初めての箒に紅潮し、長年思い描いていた理想とはかけ離れ、まるで新しいおもちゃを手に入れた5歳児のような笑顔で無邪気に笑う元・憧れのハリー・ポッターその人だった。