第9章 あなたと永遠に……6
「謙信様……?一体何処へ?」
「ついてくればわかる」
強引に手を引かれ連れて来られたのは湖
「この湖は……」
私が謙信様に助けてもらった湖だ。
溺れていく私が見た謙信様の美しさ
今でもはっきりと覚えている。
「お前に見せたいのはあの木だ」
「?」
謙信様の指を指した方を見てみると大きな桜の木が2本寄り添うように咲き誇っている。
長い枝がお互いに絡み合ってまるで……
「この桜は夫婦桜と言う」
「夫婦桜……」
確かに言われてみればそんな感じに見える。
長い枝がまるで腕のようにお互いの幹に絡みあっていて、見ているだけで微笑ましい。
穏やかな春の陽射しの下、軽やかに花びらを散らす光景はとても幻想的でいつまでも見ていたくなってしまう。
ふと木の根元を見ると風呂敷に包まれている物があった。優雅な手つきで風呂敷をといていく謙信様の手には一升瓶
「花見酒だ。お前もつきあえ」
柔らかに微笑む謙信様を見ていると胸の奥が騒ぎ立ち、鼻の奥がツンとしてきて目頭が熱くなってくる。
泣きそう……
どうして?
謙信様が柔らかく微笑んでくれただけなのに
それだけなんだけど、胸が熱くなってしまう。
「さ、呑め」
差し出された盃を受け取る時に指が微かに触れる
それだけで切なく指が熱を持っていく。
もっとふれたい……
そんな気持ちを押し込めるように私は、一気に呑みほした。