第10章 赤葦夢01
「ちょ、ちょっと待ってよ、京治…!歩くの早いよ!」
「…あ、ごめん。…………ちょっと悪い。」
京治は立ち止まったかと思うと私を抱きしめてきた。
びっくりしたけど、腕を回してぽんぽんと背中を叩く。
「京治?」
「…………もう付き合ってること言おうか。からかわれるのが面倒だからって言わないでいたけど、自分の彼女が口説かれるのを見るのは心臓に悪い。」
「…ほんとに凄いからかわれると思うよ?」
あの先輩達だ、ここぞとばかりに京治をからかい倒すだろう。
「良いさ、こうなったら羨ましいだろうって自慢してやる。」
なんてそんな京治らしくないことを言うから思わず吹き出す。
「あはは、そんなにさっきの嫌だったの?」
「嫌に決まってるだろ、灰羽はともかく、黒尾さんはかなり本気みたいだったし。」
柚季を取られてたまるか、ぼそりと言われてちょっと顔が熱くなる。
「…確かにさっきの黒尾さんには少しドキッとしたけど……」
そこまで言ってからちょっとだけ腕を緩めて京治の顔を見上げる。
「それはびっくりしただけで、私が好きなのは京治だけだから。心配しなくても平気だよ。」
にっこり笑って言うと、京治の目が驚いたように見開かれて、その後ふっと笑った。
「…そうだな、ごめん。ちょっと心配し過ぎた。……駄目だな、柚季のことになると余裕なくなる。」
京治は軽く溜息をついて私から離れる。
「……俺がいないと3対3もスパイク練も出来なくて木兎さんがごねてるだろうから戻るよ。」
平気?と聞かれて頷く。
「うん、近いから平気だよ。木兎さんが拗ねる前に戻ってあげて。」
「あぁ。…また明日。」
「うん。」
それから小走りで体育館の方に戻る京治を見送って…見えなくなってから私も校舎に向かって歩き出した。