第3章 磨励自彊ー2日目ー
ーやっぱり、あまりよく眠れなかった。
ふと目がさめると外はまだ明るくなってないみたいだ。
昨日色々と出来事が起こりすぎて再び目を閉じても寝付けない。
時計を確認すれば朝の5時過ぎ。普段ならまだ寝ている時間だし、朝食の支度を始めるにも早い。
布団を頭から被ってみたが、脳裏には孝支君、飛雄君、大地君の言葉と顔。そして唇の感触。
ダメだ!起きよう!
ガバッと布団をめくれば、他の2人を起こさないようにとそっと布団を片付ける。
Tシャツとジャージに着替えて、音を立てないように部屋を出た。
洗濯だってしないといけないし、やることいっぱいだ!と気持ちを切り替える為に軽く首を振る。
よし!と気合を入れてから1階に行こうと部員たちの大部屋の前を通ろうとした時、ドアが開いて黒い髪とオレンジの髪の2人組が出てきた。
「わっ…翔陽君に飛雄君…おはよ!早いね」
「おはざーっす!今から影山と走りに行くんです」
「そっか気を付けて。今日も練習大変だと思うけど、頑張ろうね」
「はい!行ってきます!」
「……あの!京香さん」
「ん?どうしたの飛雄君」
「俺…ちゃんと本気なんで。行ってきます」
飛雄君の姿に緊張する。そして鮮明に思い出される昨日の夜のこと。態度には出ないようにと平静を装い、駆け出した翔陽君に手を振った。
飛雄君に呼ばれて振り返れば、また手を握られる。
しかし今度は優しく。ジッと私を見てくる目は真剣で、わかってると私は頷くことしか出来なかった。
2人を見送れば、大きな音を立てて素早い鼓動を繰り返している心臓に手を当て大きく息を吐き出した。
洗濯物を確認すれば腕まくりをして取り掛かる。
タオルやビブスを洗濯機に入れて洗剤と柔軟剤を入れる。
とりあえずこの量なら一回で済みそうだ。
後は洗濯機に任せて食堂の準備をしようと其方に向かう。
食堂のドアを開けると、既に人が居て。
「あれ、京香さん。おはよう、もう支度すんの?」
「貴大君おはよう。何か目が覚めちゃったから準備だけでもしようかなって。貴大君は自主練?」
「おう、って言いたいけど喉が渇いたからジュース買ってただけ。少し走ってきたけどさ」
持っていた缶ジュースを少し掲げればニヘッと笑った貴大君。
ちょっと話そうよ、と手招きされれば断る理由もなくて、頷いて貴大君の近くに座った。