第8章 奮励努力ーsugawaraー
「京香さん、ちょっと相談があるんだけど…練習後時間ありますか?」
「どうしたの孝支君…んーと、今日は別に何もないから大丈夫だよ。また一緒に帰りながら話聞くね」
土曜日、大学の部活が午前中だけで終わったので私は今日も烏野に顔を出している。
潔子ちゃんたちの手伝いで水道で作業をしていた私の元に遠慮がちに声をかけてきたのは孝支君。
その表情にいつもの明るい笑みはなく、何かに悩んでいるようだったので話を聞くと頷けば、ありがとうございますと軽く頭を下げてから体育館へ戻っていった。
「おい京香!ちょっと頼む」
「はい!今行きます!」
ひょっこりと体育館から顔を出したのは烏養コーチ。私を見つけると手招きするのでパタパタと体育館に戻った。
「…ツーセッターの練習を私が?いやいや、私元ポジションセッターじゃないですし。烏養コーチこそセッターじゃないですか!」
「俺よりもお前の方が的確な指導が出来る。頼んだぜー」
「え、ちょ!烏養コーチ?!」
頼まれた…いや、押し付けられたのはツーセッターの練習。
話を聞けば、今までツーセッターはやったことがないという。そんな状態から私が指導して大丈夫なのだろうかと思うけれども腹をくくるしかないらしい。
「孝支君!飛雄君!ちょっと…」
自主練を始めようとしている二人を呼んでツーセッターの練習を頼まれたことを告げると、二人の目が闘志で輝いた。そうだよね、新しいことをやるってワクワクするし、孝支君からしてみれば試合に出れる機会が増えるってことだからね。うん、ちゃんと機能するように私も頑張ろう。
「そうそう、そこでセッタースイッチ!」
少し説明してから実践練習に取り掛かる。
うん、やっぱり孝支君よりも飛雄君のスパイクの方が威力がある。臨機応変にすれば良いけれど、孝支君にセッター、飛雄君にスパイカーをやらせた方が良さそうだ。
「そろそろ自主練あがれー」
様になってきたとこで烏養コーチからの声がかかり片付けを始める。
「京香さんあの!約束してた、練習…今日」
「悪い影山、今日は俺が先約」
「あ、うん。ごめん飛雄君」
「…じゃあ明日。明日俺に付き合って下さい」
「明日ね、わかった空けとく」
「あざっす!」
ニコリと微笑んでから私は二人を残して片付けを再開した。