第7章 一寸光陰 ーoikawaー
「ごめん、約束破って…本当これ以上は何もしないから…あと少し…あと少しだけ、俺の彼女のままでいて…」
いきなり抱き締められて驚いた私は、彼の胸を押して離れようとするものの、ギュッと抱き締めている力が強まり私の肩に顔を埋める徹君の声にそれを許してしまう私は甘いのだろうか。
「ねえ京香ちゃん…俺、本気で君が好きだよ。こんなに誰かを想ったことなんてないくらい、君が好き。でも、今の俺は君に振り向いてもらえるほどの男じゃないから…必ず全国に行って、優勝する。んで、全日本の正セッターになってみせる。…そしたらさ、もう一度告白させて」
「徹君…ありがとう。そんなにも私のこと想ってくれて…代表決定戦悔いが残らないように頑張って。青城なら…大丈夫。私も頑張って夢叶える…そしたら一緒にバレーしようね」
私の言葉に顔を上げた徹君は大きく頷いてくれて、何方からともなく微笑み合う。
「徹君、肩だけは気を付けてよ。あとオーバーワークし過ぎないこと…君の周りには仲間が居ること、忘れちゃダメだよ」
「ありがとう京香ちゃん。あと、俺の側にも"勝利の女神様"が居てくれてる…もう及川さん無敵だね!」
なんていつもの調子で笑った徹君は、私をゆっくりと離してそっと額に触れるかどうかの口付けを。
いきなりのことで思わず固まれば、そんな私を見ておかしそうに笑う徹君、これ以上何もしないって言ったじゃん!と軽く叩けば、ごめんごめんと謝りながらも未だに笑っていて。
「京香ちゃんが可愛すぎるからいけないんだよ?」
なんて耳元で低く囁く始末。
恥ずかしすぎて顔を俯かせれば頭を撫でられて。
何だか少しだけ心地よくて、暫くしてその手がそっと退かされれば彼を見上げてみれば凄く優しそうな、愛しそうな瞳で何も言えなくなってしまった。
「じゃあ、徹君。次に会うのは代表決定戦かな?」
「そうだね。俺たちの応援もちゃんとしてよ?」
「うん、烏野も青城も白鳥沢もちゃんと応援してる」
「ま、全国に行くのは俺たちだけどね」
「試合凄く楽しみにしてるから。サーブもね」
「及川さんに惚れさせてあげるから覚悟しててね!」
なんて言いながら私たちは手を振って反対方向の電車に。
こうして徹君とのデートは終わり、早速スマホにつけたペンギンは片割れを求める様に寂しく揺れていた。