第4章 紫陽花(三井)
「あ・・・本当に・・・三井との結婚を許してくれるの・・・?」
父はゆっくりと立ち上がりながら、“くどいぞ”とばかりに大きく頷く。
その瞬間、ヨシノの両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ありがとう・・・お父さん・・・!」
すると、三井も布団から出て、ベッドの上に正座する。
「ありがとうございます、親父さん。ヨシノのこと、一生大事にします」
「ああ、よろしく頼むよ。それから一つだけ、約束して欲しい」
そう言って、三井の隣で泣きじゃくっているヨシノを指さす。
「娘にこの顔をさせるのは、今日で最後にしてもらいたい」
娘の泣き顔を見るのは、今日で最後。
それが父親としての願い。
「・・・当然です」
三井はニッと笑い、ヨシノの頭をクシャクシャと撫でた。
「こいつの泣き顔も嫌いじゃねーけど・・・」
高一の春。
部活の連絡事項を伝えるため、木暮の教室に行った時見かけたその瞬間から───
「ヨシノの笑った顔が、めちゃくちゃ可愛いと思ってるんで」
だから、この笑顔を一生かけて守る。
一度は全てを捨てて、一からやり直す覚悟ができたくらい、惚れている女性だ。
「世界一幸せにします・・・必ず!」
6月の初夏。
ここに一人の幸せな花嫁が生まれた。
紫陽花の花言葉
「辛抱強い愛情」「家族団らん」
第4章 『紫陽花』 Fin.