第5章 無血の花嫁(ルフィ)
「ヨシノ、ルフィさん、こちらへ」
ムムが二人の手を取り、鐘の前へと連れていく。
他のキラウィたちも同様に、この日結婚したカップルたちを鐘の前へと案内した。
鳴り響く、鐘の音。
愛し合う男女たちを前に、キラウィたちは先ほどヨシノがしたように片膝をつき、一礼をする。
「キラウィの祖に代わり祝福を」
彼女たちの勝手な行動を、司祭はもはや咎めようとしなかった。
否、彼はすでにルフィの覇気に圧倒され、ヨシノのダンスに心を打ち砕かれ、言葉を発することもままならない。
「新たな門出、“航海”に、キラウィの祖のご加護あれ」
普段は使わない“航海”という言葉は、ヨシノに向けて。
一瞬の後、大きな歓声が挙がる。
麦わらの一味だけじゃない。
島中の人間が、ルフィとヨシノを祝福していた。
「島が誇るキラウィの踊り子が、海賊の花嫁になった」
「キラウィのダンスは観光資源・・・それ以上に、バオブ島が世界に誇る“文化”だ!」
海賊への恐怖と敵意すら忘れ、島民たちが口々と叫ぶ。
それを見て、ふふふ・・・とロビンが微笑んだ。
「幸せになれよ、ヨシノ! 今までありがとうな!」
「世界中の奴らを魅了してきてくれよ! 観光客がもっと増えるように!」
人の本能の中には、誰かを大切に思う気持ちも含まれる。
ヨシノのダンスはもしかしたら、それを刺激したのかもしれない。
たくさんの祝福を受けながら、ルフィはヨシノの手を握った。
「いくぞ、出航だ!!」
ハートのシャボン玉と、両手いっぱいの星。
ルフィは、ヨシノの手を引きながらその中を走った。
麦わらの一味もそれに続く。
この先の海で何が待ち受けているか分からない。
海賊として自分も“犯罪者”となる。
それでも、ヨシノの心は満天の星のように明るかった。
何より・・・
この時、ヨシノは生まれて初めて、バオブ島で幸せを感じていた。