第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「い、いかがいたしましたか!?」
「問題ない……そこに居るなら、お前も入れば良いのに…」
「へ…?あ、では…」
白粉の答えに、女中達が慌てて襖を押さえに行く
「駄目です!」「兼続様、立ち入り禁止です!」
唯一の男であった仕立屋だけは見てはならんと必死に目を閉じていた
それから数刻、
「お待たせいたしました」
女中が襖を開き、兼続を招き入れる
兼続の目に入るのは白粉は、
白地に銀の地模様が入った着物
半襟は赤く、それは妖になった際に白粉の目元の色を思い出させる
そして、半襟よりもくすんだ赤い帯
とても美しい女が目の前にいるのだ
「……お似合いでございます…」
「似合うものか…着付が苦しくて敵わん…」
「それは、慣れでございますよ」と一番年配の女中に言われ白粉は渋い顔をするのだ
「せめて、少し着崩させろ」
自分で襟元をぐいっと引けば、豊満な胸がよく見え…
「ま…っ、お待ちを…っ!!」
バッと、顔を染めた兼続がそれを閉じるように襟を合わせた
「…離せ」
「開きすぎで御座います!!」
「開かせないなら、脱ぐ」
「ッ…あまり、開きすぎずに…お願い申し上げたい…」
はぁ…と面倒そうな白粉だが、兼続の言うことを聞き先ほどよりは控えめに胸元を開く
(…おかか様から、聞かされている。謙信達に不調の原因を話したと…そして、わざわざ謙信と佐助が様子を見にきたのだと……兼続も、このようなことをする以上…心配をしていると見ていいだろう…)
白粉は、後ろめたさもあってか兼続の急な用意を無下にはしなかった
「…着物の件は、感謝する…だが、私の衣はさほど力を必要としないから問・・」
「白粉殿は、湖様の大事な母者でございます。某に出来ることは、こんなに些細な事のみ。さほど力を要しないと言うが、やはり使っているには変わりの無いこと」
兼続の表情は真剣だ
「可能な限り、白粉殿には元気で湖様の近くに居て欲しいと願う…其の願い、聞き入れていただきたい」
「……」