第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
その頃、鈴は寝床を求めてある部屋へと向かっていた
此処には鈴の友達がいるのだ
同じもふもふの白い仲間が
鈴がその部屋にはいれば、ぴょこんといくつもの耳がたった
そして仲間を迎えに行くように、猫の鈴に向かっていく
お互い頭をぐりぐりとすり寄せ挨拶すると、我先にと駆け出す
当然、猫の鈴は兎より早い
酒を片手に持った彼の膝には、煤色のふわふわの毛玉、それに白い毛玉が群がる
「お前達…邪魔するなよ」
そう言われれば、謙信の膝でぴたりと動きを止め寝に入る彼ら
それを謙信は気にする様子もない
今夜の寝床はここだ
鈴のお気に入りの場所
白粉が不在、二日目の朝
もう日々の仕事になってしまった湖の所在探し
まずは、白粉と湖の部屋を
そして、信玄の部屋
次に、佐助の部屋に
「……幸村殿はありませんな」
「あってたまるか」
幸村は、部屋に訪れた兼続の言いたいことは目に見えているようで即座に答えた
「では、今朝は謙信様のお部屋でございますか」
そう言い謙信の部屋に向かっていく兼続
今朝の歩みは、いつものように五月蠅くなかった
一時だけ…
兼続の足音が五月蠅くない事なんて、そちらの方が珍しいのだ
「おはようございます。謙信様」
「兼続…」
「湖様はお出でで御座いまするか?」
「あぁ。まだ寝ているがな」
「かしこまりました。そろそろ起こされますか?」
「…まだ良いだろう」
「承知いたしました」
だが、その後昼になろうとも謙信も湖の姿も見えない
信玄は返事があるなら、ほうっておけと言ったが
(こうも遅いと気がかり…もしや…いやいやっ、まだ九つの童に殿が…いや!ない!ない!あぁ、でも…湖様は大人なわけで…っ)
「兼続、家康はどうしたんだ?」
「家康殿ならば、佐助殿と薬草を摘みに出かけられました。こちらには、安土に少ない薬草があるらしく」
悶々としながら答える兼続に信玄がいう
「そんなに心配するな。あいつは子どもに出をだすような奴じゃ無い」
「…解っております…が…今一度部屋に行ってみまする」