第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「だって、ととさまのあれ。すぐに まっくろに なるんだもん…っ」
『…湖、前にも話したが使いすぎるな。使いすぎれば、お前と鈴の調整が上手くいかなくなる…』
「でも…」
はぁ…と息を付くと
『まずは、その体を成長させる…それから、もう一度話す』
そう言い、湖の額に指を当てた
つん…っ
くんと、押されると自然と後ろに下がる頭
同時に、ふわりと暖かく甘い匂いが自分を包んだ
「んっ…」
ぴくりと身を震わせる湖
着ていた着物がはだけはじめ、体が大きくなるのが解る
それは一瞬のようでもあり、果てしない時間が流れたような感覚もあり、なんとも不思議な違和感なのだ
うっすら目を開ければ、伸びた手足、髪の毛が目に入る
「…っ」
「ほう…」
「湖…」
「湖様…」
遠くでそれを見守っていた武将達は、酒を飲む手が止まりその姿に見入る
後ろ姿だけで全身は解らないが、湖は成長していた
か細い手足、栗色の髪
駆け寄っていきたくなる気持ちを抑えた者もいた
パンパンっ
登竜桜の手を叩く音共に、湖の着物もまた替わった
もともと着ていた赤い着物と同様の色味
膝丈だったものは、少し長めに足首が見える程度の長さに変わっていた
白粉が、湖の着物を整えてやるとその体を立たせる
腰下にあった頭が、胸下の位置くらいまで背が伸び
肩に掛かる程度だった髪が、背中の半分をほぼ隠すくらいまで伸びていた
「かかさま」
そして、舌っ足らずな口調が抜けている
「なんだ?湖」
ただ、幼い笑みはそのままだ
満面の笑みを浮かべると、白粉に抱きつくのだ
「湖、大きくなった?」
「あぁ。ずいぶんとな…」
えへへーと、くるりと回って三人に自分の姿を見せる
佐助は…「小学生…か…」と小さく言い、湖を見ていた
(年齢より大きく見えるのは血筋のせいか…)
湖は1/4とはいえ、西洋人の血が混じっている
身長だけではない
色素の薄い髪や瞳、白い肌の色
顔立ちも幼さはあるが、どこか艶もあるのだ
(これは、本格的に気を付けないと…)
と、兄として妹が心配になるのだった