第6章 おつかい (裏:三成、光秀)
「私が?いいの?」
秀吉に渡されたのは、お金の入った袋
それを差し出した両手に乗せたまま驚きの顔で尋ねる
こちらに来て、ひと月程
城内の手伝いや、御殿へのお使いはさせてもらっていたが、城下への一人歩きは許してもらえていなかった
みんなを心配させているのは、猫になってしまう事
そして、それが制御できない事
自分でも理解していた為、城下へ一人で行くことはあきらめていた
秀吉や三成が時間を作り、連れ出してくれることはあるが、迷惑掛けまいと、湖からは願ったことはなかった
秀吉は、心配な眼差しのまま
「…俺も同行してもいいんだが」
しぶしぶといった様子だったが、たまには息抜きも必要だろうと承諾してくれたようだった
「十分に気をつけて行け。何かあればすぐに城に戻ってこいよ。あと一刻だけだ…過ぎれば探しに行くからな…」
持たされた袋を手に握る
「金平糖を買ってきてくれ。それ以外は自由に使って良いぞ」
と、湖は満面の笑みで秀吉に抱きついた
「ありがとう、秀吉さん!うん、約束する。一刻で戻ってくるね!」
抱きついたまま礼をのべると、頭をポンポンと優しく触れ「おう」と答えが帰ってくる
そのままぶんぶんと手を降り部屋に戻る湖を見送ると、三成が書庫から出てきた
「嬉しそうでしたね、湖様」
「だな」
「…大丈夫ですよ。念のため尾行させておりますから」
にこりと笑う三成に、こいつも過保護だなと思った秀吉だった
(嬉しいっ秀吉さんたちと何度か城下へは行ったけど、ゆっくり見てみたい露店もあったから…)
ふふっと笑いながら鼻歌を歌い
湖は機嫌よく階段を降りていった
(あ、そうだ)
厩舎へよると、顔馴染みに頼み馬を一頭借りた
「っ…湖様、気をつけてくださいね!」
内一人が慌てたように駆け寄ってきた
「大丈夫、一刻くらいで戻るから」
手綱を引き馬を走らせると、久し振りの感覚に心が躍る
(学生以来…やっぱり、乗馬は楽しい!)
「おい、なんだ?湖様って?」
「……秀吉様に言われて黙ってたんだけどな…湖様、織田家縁の姫ぎみなんだよ…」
「は?!…姫様がなんで馬の世話なんかに来るんだよっ」
「俺に聞くなよ…はぁ…念のため、秀吉様に報告してくるわ…」