第21章 一線を越えた男
ひどく泣いた覚えがあるが、まぶたは腫れていない
(あんなに泣いたら一日は腫れるだろうから…丸一日くらい寝てたのかな…?)
外の色がだんだんと明るくなってくるので、朝方だったのだと解った
(…あの子達は…)
あの場にいた犬達は、二度も人を食べている
おそらく馬酔木の葉を食べた犬もいる
六頭の内、二頭
明らかにその様子がわかった
足がふらついて身体が麻痺していたのだ
(もう…元には戻れない…)
あの犬達は、浪人が駆除した野犬だと言っていた
おそらくその通りなんだろう
食べ物に困って、村の田畑から野菜などを食い散らかしたのかも知れないし、民家に入って台所をあさったのかも知れない
それでも、人を食べ物として見た犬は居なかっただろう
あの犬達、そして以前にそうさせられた犬達は、大山の非道な仕打ちで人を食べ、そして殺されたんだ
きっと、あの場にいた犬達は…
湖の目から一筋の涙がこぼれ落ちる
それは次から、次へと
押さえることもされずに、ぽたぽたと夜着に落ちていくのだ
外がだんだんと明るくなるにつれ、人の気配を感じはじめる
静かだったその場所が、太陽と共に目覚めたように少しずつ音が足されていく
雀の声と共に、数人の足音が聞える
(…私…また、みんなに迷惑掛けてる…)