第18章 秘密の抜け道(裏:謙信、信長)
うだるような暑さも過ぎ去り、ススキがちらほらと見え始めた秋の初め
このところ、隣国に争いもなく安土城城内でも城下でも一時の平穏な時間が流れていた
「政宗の誕生祝いも落ち着いたか」
「ぐっ・・・、急にどうされたんですか?」
大名から送られてきた書状の確認作業をしていた秀吉の側で、暇をもてあますような信長の言葉
唐突なそれに、秀吉は口に含んでいた茶が気管の変な部分に流れた
「御館様、いかがされましたか?」
「このところ、落ち着いた時間が過ぎているからな。湖も騒ぎを起こさない・・・少し、暇をもてあましているだけだ」
「・・・暇などと・・・昨日、朝廷に無理難題持ちかけた方が良く言われます・・・」
くくっと、信長が含み笑いをしてみせた
「あぁ、そうだったな」
秀吉が、言葉を発しようとすると同時に、障子の外から声が掛かる
「失礼します。御館様」
「・・・政宗か、入れ」
「政宗、どうかしたのか?」
秀吉が、書簡を丸めながら政宗に問えば、政宗は部屋をぐるっと見渡し「やはり居ないか・・・」と、ため息を零した
「なんだ?」
「・・・秀吉、ここ数日の湖の動向を知ってるか?」
「・・・湖だと?」
聞けば、ここ3日ほど女中の仕事の手伝いを朝済ませ、食事後は何処に出ているのか姿が見えないのだという
「だが、夕餉の時刻には戻ってきてるだろう。ここ数日は食事を共にしていたしな」
「そうだ。朝食から夕餉の間の時刻だけなんだが・・・あいつ、こそこそと何かしてやがる」
ニヤリと信長の口角が上がった
「貴様らは、仕事を片付けよ。湖の事は、任せておけ」
「「は・・・?!」」
秀吉、政宗の答えを待たず信長が部屋から消える
「・・・政宗」
「・・・なすりつけるな、問題は湖だろ」
「湖が、どうかしたのか?」
その場に居た二人以外の声に、その方向を向けば光秀が新たな書状を手に障子に手を掛け入ってきた
「光秀っ!お前、あれほど黙って居なくなるなっと・・・」
「待て。先に報告だ・・・城下に、上杉と武田の両名が入っている。特に目立った動きはしていないようだがな。信長様に、報告を・・・」