第12章 私を待っていた彼は(裏:安土組全員)
「ま・・・まって」
着物を引かれたまま振り向けば、すっかり目が覚めたのであろう湖が家康を見上げている
「私、家康にちゃんと謝りたい」
(謝る?)
良く解らないが、ひとまず湖の正面に座り直すと
湖は体制を整え、家康の目を見て言った
「家康、「逃げろ」って逃がしてくれたのに、ちゃんと逃げなくて、ごめんなさいっ」
「あとっ・・・忘れてて・・ごめんなさい・・・」
最初のを一息で言い切り、続けて気まずそうに言い足す
「・・・なんで」
「え?」
家康はそれを聞いて眉をひそめていた
「なんで、あんたが謝るの・・・」
「だって・・・ドジして皆に心配掛けたし・・・大切な人の事を忘れてたなんて・・・私だったら悲しいから・・・」
(どじ?・・・あそこから落ちたのは湖のせいじゃない・・・記憶が混乱したのだって、怪我さえ、落ちさえしゃなきゃ無かったことだ・・・)
「詫びるのは・・・俺・・・」
「・・・家康?」
瞳を閉じ眉をひそめる家康は、湖にはひどく辛そうに見えた
「俺が、あの時ちゃんと・・・あんたを守れたら、怖い思いも辛い思いもさせなかった・・・」
(まだまだ・・・足りない・・・強くならきゃ・・・)
「だから、湖は俺を責めても謝る必要なない・・・」
「・・・そんな」
頭を振り、家康の言葉を否定する湖
そんな彼女の片手を取り、軽く握れば温か体温を感じる
「・・・ごめん、湖・・・」
「・・・」
湖は、家康を見つめていたが、家康はこの後口を閉ざした
繋がれた手
その手に反対の手を添え、湖は家康の手を軽く握り返した
「守ってくれたよ」
彼の手を持ち上げ、自分の口元へ運ぶと指先に口づけを落とす
「家康・・・私、記憶無くしちゃったけど・・・怪我した私を手当してくれた家康の事は覚えてたんだよ・・・」
「え・・・」
くすりと笑うと、湖は続ける
「安土に居たことも、崖から落ちた理由も、最初は鈴の事も忘れていたけど・・・熱くて息苦しいそんな時に、私の手を握って苦しそう顔をしていた人がいたことは、覚えてたの・・・家康だよね?」
謙信に保護されていた湖に見つけたあの日の事だ
家康は、黙って聞いている