第12章 私を待っていた彼は(裏:安土組全員)
■信長編 『上書き』■
宴の途中で、秀吉が持ってきたのは領地で起こった災害の知らせ
放っておくことは出来ないので、宴の席を抜け指示を出していた
その内、宴は終わって普段通りの朝を迎えていた
違うのは、湖が城に戻っていること
(湖が居ると居ないでは、ずいぶん城の雰囲気も変わるものだな・・・)
以前なら、周りの様子など気にもならなかったが・・・
湖が来てから城内の人間が笑みを浮かべることが多くなった
そんな話を秀吉から聞いて、よく見てみれば、確かにそう思われた
(はじめは、面白い小娘だと思うだけだったのだがな・・・あやつが側に居ないと妙な気分になる・・・)
元々眠りの浅い信長が、湖と出会って、彼女を側に置いてる時間だけは深く眠れる事に気づいたのは、湖を連れてきて早々の事だった
湖が、安土から居なくなってから
また以前のように浅い眠りが続いていた信長は、手元の書簡を置くと腰を持ち上げ懐に片手を入れ目的の場所へ歩き始めた
程なくして、湖の部屋にたどり着いた信長は声を掛けぬまま襖に手を掛け引くと・・・
其処には、気持ち良さげに横になる湖の姿があった
フッと笑うと、部屋に入り襖を閉じる
障子から差し込む光は、柔らかく・・・
「確かに寝心地が良さそうだ」
そうつぶやき、湖の横に腰を下ろした
「湖・・・」
手で髪を梳く
先ほど、湖が説明したゴムをつけた髪飾りが顔横の髪を上げており、よくその顔を見ることができた
赤い紐に鈴の飾りが湖の髪によく映える
「・・・ごむを使えば、もっとわかりやすい首輪が作れるかもしれな・・・考えてみるか・・・」
髪飾りを触れれば、ちりりん・・・と鈴の音が響く
(懐に閉まってあった際には、この音を聴くことも無かったな・・・)
前髪を少し上げると、家康の言っていた傷跡が確認出来た
(これか・・・)
目を細め、その傷を親指の腹で撫でれば湖が小さく反応をする
「ん・・・」
そして寝返りを打ち信長にすり寄ってくる
「・・・さま・・・」
(今、誰を呼んだ・・・)
夢を見ているのか、笑みを浮かべて寝る湖を起こしたくなる
今、小さく呼んだのは誰だったのかと