第10章 敵陣の姫 第三章(裏:謙信)
■謙信 『マーキング』
時はさかのぼり・・・幸村と湖が、顕如の手勢に襲われた日の事
体調を崩し部屋に戻った湖を、信玄達との話し合いを終え、様子を見に来た謙信は、羽織をすっぽりとかぶり丸まった湖を見ていた
そっと近づき、背を撫でれば・・・
ぴくりと反応し、やがて羽織から顔を出した
「・・けん、しんさま・・・」
その顔は、ひどく青ざめ具合が悪いように見える
眉をひそめる所をみれば、おそらく頭痛が辛いのだろうと判断出来た
「・・・痛むのか?」
「・・・はい・・・」
湖の瞳から涙がこぼれ落ちた
「はい・・・痛いです・・・」
「・・・そうか・・・」
次から次へと落ちる大粒の涙
謙信は、髪を梳くように撫で、湖を抱き上げると膝の上で抱え、軽く抱きしめた
「大丈夫だ・・・心配するな・・・」
声が届いたかどうか・・・
やがて眠りに落ちた湖の額に口づけを落とすと、褥に置き、襖の外の気配に視線を移す
すると、外から信玄の声がした
「渡せんな・・・」
と
(渡すものか・・・湖は、手の中に置く・・・)
信玄との話をし、やがて信玄が去れば
謙信は、湖の部屋に戻る
そして、寝ている湖の横に横たわると、その身体を引き寄せ体温を共有するかのように抱きしめた
「・・・湖・・・」
返答はない
だが、身体は心臓の音、暖かな体温
湖が此処に居ることを知らせてくれる
謙信は、湖の首元に顔を埋め、いつも香る香りを吸い込む
(甘い・・・花・・・、この娘からしか感じない香り・・・)
謙信の髪がくすぐったいのか、湖は少し身体をよじった
「ん・・・」
小さな声も漏れる
「湖」
だが、呼びかけへの返答は無い
謙信は、湖の寝衣に手を掛け、腰紐を解いた
後ろから抱きしめるようにしていた謙信の手が、腰紐を解かれた事で開かれた前合わせから忍び込む
するりと腹を撫で、左胸に手を添える
(心の音・・・よく伝わる・・・)
どくんっ、どくん・・・と、心地の良い心音が感じられた