第8章 敵陣の姫 (裏:謙信)
湯殿へ運ばれた湖は、驚いたまま声を発せずにいた
自分の知ってる謙信は、こんな人だっただろうか?
そんな困惑もあったが、まさか湯殿へ行きたいと言ってすぐに抱き連れられるとは思ってもみなかったのだ
「謙信さま?」
湯殿へ着けば、彼は湖を下ろし湖を見下ろした
「なんだ」
「あの・・・ありがとうございます・・・」
(運んでくれた・・・きっと、私が動けないと思って、連れてきてくれたんだよね)
「構わん」
そう言うと、謙信は自分の衣に手を掛け脱ぎ始める
「っけ、けんしんさまっ?!あ、・・・あのっ」
湖は、それに驚き顔を隠すと横を向いた
(へ?なんで、謙信さまが脱ぐの??)
「・・・何してる?さっさと脱げ」
自分の着物を脱いだのか、謙信は湖の寝衣に手を掛けた
寝てばかりいた湖の力は、抵抗している内に入らずあっという間に脱がされ抱き上げられる
「ひゃっ!!け、謙信さまっ・・・ちょっと!」
真っ赤になって、体を隠し謙信を見上げるが、彼はこちらを見ずに湯の這った方へと歩き出す
そして、湯へ体を沈めると抱きかかえた湖を見て言った
「一人で入れたか?」
そう言われれば、否定はできない
数日寝ていた湖の体力は本当に微々たる物で、湯殿まで歩いて来れたかも解らない
ただ、だからと言って
「・・・い、いっしょに入らなくてもっ・・・」
抱えられたまま身動きできずに縮こまる湖
額の当て布は、そのままだが、他部分の傷は見えている
入った際に反応は無かったから、傷が痛む事やしみている事はなさそうだった
「そんなに縮こまるな・・・体を緩めろ」
硬い体の湖に、眉を寄せ謙信は湖の顎に手を掛け自分の方を向けさせる
「む、むりですっ・・・だって・・・恥ずかし・・・」
最後は消えかかった声
よほど恥ずかしいのか、せっかく自分の方を向けさせたのに目を閉じて見ようとしない
「つまらん」そんな言葉が出そうになったが、それを飲み込み謙信は目をこじ開けることにした
ちゅっ
それは、いとも簡単に叶う
ぎゅうと、閉じる瞳の上に軽い口づけを落とす
(・・・へ・・・今・・・)