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【イケメン戦国】私と猫と

第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)


(本当に猫だな…あまりに遠い感覚で忘れてしまっていた…)

飛ぶ高さも、耳も、視界も、妖の時とは異なる
体の感覚も、重さを感じる

(まぁ、人の視線を潜るには妖も猫も変わりないか…)

月夜の道を姿隠さず歩く
寺に近づくほどに浪人風の姿は見えず、僧侶だろうか?
その成りこそ町人のように見えなくもないが、歩く姿は武士とも町人とも異なる
すっと伸していびた姿勢に、会釈…
どう見ても

(顕如の同胞だろうが…武装はしていなさそうだな)

それに人数

(多くはない…というより、此処から離れようとしているな)

顕如は、ここで誰かを打とうとしているわけではなかった
目的は、信長の弱みを握ること。揺さぶることのみ
その手段として、喜之助を手に入れたのだ

(あの寺か…)

月が雲に隠れれば、白粉の白い姿も黒く見える
廃れた廃寺に忍び込めば、そこは思いのほか手入れされており廃寺になって数年とは思えないものである

(人の気配は…少ない)

やはり顕如の同胞は寺から撤去するように動いており、ここに残っているのは数名。妖怪の力は封じられている白粉にとってが、動物として感じる気配だよりだが…

(人の姿よりはわかるな…)

荒れた庭に忍び込んだ猫は、音を立てないように寺の縁側へと進む
そして、そのまま床下を進み気配や話し声を辿って歩くのだ

ギシギシと、床の歪む音
ボソボソと、相談をする男の声

『顕如様、手筈通りに進んでおります』
『北条の残党はどうだ?』
『そちらも予測通りに…統率を取る物もいず、いくつかの派閥に分けれ上杉や武田の顔を見るなり襲いかかっております。ただ、気になる点が一つ…』
『なんだ?』
『見張らせている方角とは別の方向でも、北条の者が倒れており…どうも別の者が動いている様子です』
『……上杉や武田の手の者以外か…怪しいとすれば、先日出入りがあった今川か…』

(見張られていたわけか……まぁ、そうだろうな。端的に考え襲って来るような輩ではないな…)

今は、情報より先に喜之助(子ども)を
娘が何より大切ではある白粉だが、人であれ、猫であれ、子どもはやはり尊い存在だと…守ってやらねばと思うのは、一度は子を産み母となった者の考えなのだろう…そう自分で思いながら、子どもを探すため暗い床下を進めむ白粉

(猫になれるだけでも身を隠すには十分な力だな…)
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