第29章 桜の咲く頃 五幕(一五歳)
白粉の容姿が変化し、それに驚きつつも周りが落ち着いてきた頃
思わぬ訪問者が現れた
「何のようだ」
広間にどかりと座っているのは、織田信長だ
そして今広間に入ってきたのは、謙信だった
「猫を見に来ただけだ」
「その為に単馬で来たのか…呆れるやつだな」
そして信玄
「光秀から面白い文が届いたのでな。白粉はどこにいる?」
「…今、あれにちょっかいをかけるのはよせ」
「警戒するな。特に何もせん。少し顔を見に来ただけだ」
信玄が苦言を指すも、信長は不敵に笑い返すだけだ
その様子に、謙信がそばに控えていた兼続に視線を送る
すると、兼続は少し躊躇するもその場から去った
「光秀から特に追加の知らせはないが…動きはあったか?」
「あれば、すぐに耳にはいるのだろう…」
謙信はため息を零しながら、自分も広間に座る
「顕如の件は、こちらでも追っている。確かに近くにいるが、北条と組んだわけではない…近々に動くとは今は思えんがな」
「まぁ、光秀の情報は使える…どこから情報を探るのか、やつの話は当たる物が多い」
信玄もまたその場に座り、話は顕如の事になった
顕如は確かに越後周辺に潜んでいた
光秀の間者、信玄の三ツ者、謙信の軒猿
三方から監視を受けている
監視に気づいていれば、そうそう動けはしないはずだ
「あやつは首だけになっても食らいつこうとする…さすがに自分を鬼と言うだけあるからな」
「あいつを鬼にしたのはお前だろう…」
「あの件について貴様と議論する気はない」
石山本願寺の事だ
両者それぞれの言い分はある
戦の世だ
主張し合う物が異なれば、遅かれ早かれ敵同士、戦にだってなる
だが、仏をまつる寺の焼き打ちとなれば…
考え方の違いだ
(俺だって僧侶が武力を持つことは由とは思ってはいない…だが…)
信玄がそんな事を思っていれば、廊下を歩く足音が聞こえ始めた
「信長様が…っ、あの方は…っ!」
「まぁ急くな。秀吉」
秀吉と光秀の声だ
開けられた襖からまもなく両者が現れれば、秀吉は開口一番…
「信長様っ!単馬で来られるなどっっ!!こんな時に何を考えておられるのです!!此処には、信長様を狙う顕如がいると解っていて…っ!」
「煩い…騒ぐな、猿」
「おとりになられに来たのであれば、時が悪い。あらかじめ言って頂ければ、監視も弱めたのですが…」