第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
― それは あまりに 暖かくて
まぶしくて 目を閉じそうで
(桜さまに…)
― あなたの指が 優しくて 夢心地で
ここにいる ここに感じて
(…かかさまに)
― ぬくもりが 心地よくて 泣きそうで
ここにあって ここに感じて
(兄さま、ととさま…)
― 視線が 確かに まっすぐ…
(謙信さま、幸、兼続…)
- 感じられる
見守られている それに 甘えて
くすぐったさが あたりまえで
(光秀さん、三成くん…)
- ときどき 忘れてしまう
自分の足で 立つことを
(秀吉さん、政宗、家康…)
- ときどき 怖くなってしまう
自分の足で 立つのが
(信長さま…)
- それでも 自分の足で 立っても
求めてしまう
この手を のばして ぬくもりを
(みんな、みんな…大好き)
- 優しいぬくもり 大事に抱えて
忘れないで 進んでいこう
目を閉じないで ちゃんと見て
誰かに 与えられるように
(精一杯 感謝の気持ちを込めて…私もみんなのように…みんなと一緒に過ごしていくから)
ふっと、登竜桜の口角が上がる
湖の歌には気持ちがのる
いつだって、誰かを思う気持ちが込められている
『不思議なものだな』
「おかか様?」
『…湖には確かに手を貸した…だが、こんなにその存在が身近に感じるようになるとはな…』
「…おかか様は以前から人に心を砕いておりますよ」
白粉の返答に、登竜桜は苦笑する
『良くも悪くも聞こえるな』
「……」
登竜桜は、長く存在する神だ
もちろん、この世には彼女以上の時間を過ごしている神などたくさん居る
だが、この場のだれよりも、白粉よりも長い年月を過ごしている存在だ
そんな中人間と共存したり、人を拒絶したり、その時代の人間の行動に
神である登竜桜も、その立場を変える
それでも、基本的には人間に対してひどい印象を持っているわけではないのだ
部類分けがあるならば、人と関わりを持つことが多い神の部類だろう
「…家族ですから…湖は…湖と私は、あなたの家族です。家族は、身近な存在なのですよ」