第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
その日は、信玄の予想通り
白粉も湖も部屋から出て来なかった
何もしらない鈴は外に出たがったが、この日ばかりは母猫は危険を察したのか、それとも警戒したのか、子猫を部屋から出すことはしなかったのだ
後に事情を知った兼続は、真っ赤になったり真っ青になったりを繰り返すのだった
白粉の気配がようやく落ち着いたのは、それから三日後
湖はと言えば、その三日間強制的に眠らされており、表には鈴が出ていた
三日ぶりに顔を出した湖は、義元が帰った直後の記憶なのだ
そして自分が三日間も強制的に眠らされていたと知り、白粉を怒った
「かかさまっ!いくらなんでも、三日は酷い!私、最近寝てばっかりだよ!」
「……」
何を言われても白粉は表情を変えない
「もーっ!湖だって自覚したもんっ…ちょっとは…だから、気をつけるよ!ちゃんと!でも、謙信さまたちに失礼でしょ?!ととさまや、謙信さまは、そんなことしないもん!!」
「……はぁー」
先ほどから繰り返される湖の主張に、白粉はため息をつくだけだ
(自覚したのは良いが、何故にあれらを安全だと言い切れるのかが解せん)
「もーっ!かかさ…ぶっ」
パンと、湖の口元を手で防ぐと白粉は近くにあった佐助お手製犬笛を湖の首に掛ける
「解った。私が悪かった。が、心配するに超したことはない。いいか?何かあれば、必ずこの笛を吹け」
「…兄さまの笛なら、ちゃんといつも下げてるよ。鈴になったら外れちゃうけど…」
「それは困るな…佐助に対策を頼むか…いや、おかか様に頼めば適切に対応してくれるか…」
ぶつぶつと独り言を始めた白粉
そんな白粉の両頬に手を当てると湖は、くいっと自分の方へと顔を向けさせる
「かかさま。私はこれから、佐助兄さまと兼続と運動と食事について話してくるからね」
聞いてるよね?と言うように白粉の表情を伺う湖に
「解ってる。先ほども聞いた」
「かかさまは、今日はお昼寝だよ!かかさまがいくら妖でも、三日も寝てないのはおかしいからね!!」
「この身体に睡眠は不要だと…」
「いーのっ!寝るの!!今までだって寝てたでしょ!」
「いや、どちらでも変わりは・・」
「あるの!!!もーっ!はいっ、ここに入る!!」