第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
最近目にしていなかった
白地の着物に緑の帯
白粉が自分で出す着物は決まってこれだった
兼続は一度聞いた事がある
「着物は自由に変化できるので御座いますか?」
すると、可能だと答えた白粉
自在に色も形も変えられる
考えてみれば、確かに眠る際にはそれなりに薄い着物を羽織っていた白粉
だが、人型の彼女が纏うのは必ずこの着物だ
登竜桜が与えてくれたものだから…と、小さく嬉しそうな笑みをこぼした白粉
(おかか様…とお呼びでしたな)
死にかけの白粉を助けて妖にしたのが、登竜桜なのだという
「起きられていましたか?」
「あぁ、今な」
(今…?それにしては寝起きが良い…と言いましょうか…以前の寝起きの白粉殿は着物をまとわずに…)
ぶんぶんと頭を振ると
(いや…良かったです。ここで裸を見せるなど…)
少しだけ残る疑問は、余計な事を考えぬように排除した兼続
だが、その疑問通りだったのだ
白粉は確かに眠っていた
馬で駆けている間は
飯山城が近付き、そこから離れがたい気持ちに押され、寝たふりを決め込んでいたのだ
(まさか…懐に入れられると思わず焦ったが…上手く誤魔化せたようだな…)
白粉は、兼続を見ないようにし政宗の元へ手を伸ばす
「預かる」
湖をだ
政宗は、少し渋い表情を浮かべながらも懐から湖を取り出し白粉に手渡した
白粉は、湖を愛おしそうに抱くと歩き出す
「…母親の顔…だな」
小さく呟いた政宗の言葉に三成が頷く
湖が十二になる
白粉と共に入られる時間が迫ってきていた