第4章 虫の王
「あ、の、私は…自分の部屋で寝ます、から…」
私は二人を見ていられなくて、視線を逸らしながら口にした。見たくない。胸が痛い。そんなにキリヤ様は私の事を嫌っているの?
「何、僕の命令が聞けないの?僕がここで寝ろって言ってんの」
「っ!」
低い声で言われて唇を噛んだ。キリヤ様の命令だから私は従わなくちゃいけない。だってキリヤ様は王様なんだもの。
その間にも、虫の女の人は私に見せ付けるように甘い声を上げている。
「素敵ですわ!キリヤ様、キリヤ様、もっとぉ…」
「分かってるよ、あげるからいい子にしてなよ」
優しく話しかけるキリヤ様。甘く口にして女の人の髪をゆったりと梳いている。私はキリヤ様にとって邪魔な存在?キリヤ様には私は不要な存在なの?
私はのろのろとクッションに向かった。私なら十分に寝られそうな程の大きなクッション。それに用意された布を頭から被って丸まった。
耳にはベッドが軋む音と二人の息遣い、喘ぎ声が聞こえてくる。私はそれが嫌で手で両耳を覆った。それでも、音が小さくなっただけで虫の女の人は態と大きな声を上げているのかどうしても聞こえてしまう。
「あぁん、キリヤ様ぁ、何時もより、凄いぃ…」
ギシッと大きくベッドが鳴った。
「っあん!イッちゃいます、イッちゃう…」
ギッギッと壊れそうなほどの軋み音。
「…キリヤ様ぁ、お慕いしております、キリヤ様キリヤ様ぁ!好きっ!好きですぅぅ!」
早く終わって欲しい。キリヤ様が私の事をお嫌いなのは良く分かったから、早く解放して欲しい。もうキリヤ様に近寄らないし私が邪魔なら、今後部屋から一切出ないようにします。
だから、私が不要だと、要らないと言う事をこれ以上見せ付けないで!
私は固く目を閉じて逃げる様に更に体を丸めた。どれだけ願っても二人の行為の音を耳が拾ってしまう。
体を丸めると、ふと胸元から花の香りがした。さっき私が作ったチリの花の栞。不思議な事にこの栞からは花の匂いがする。キリヤ様にも一枚差し上げようと思って持って来たものだった。
私はその栞を抱き締めて、早く時間が過ぎてくれるのを祈ったのだった。
───あんたが居なければ!
「っ?!」
私は飛び起きる様にして眠りから覚めた。何だか嫌な夢を見た様な気がする。既に夜は明けていて、見渡すとキリヤ様のお部屋にはもう誰も居なかった。