第4章 虫の王
オルガが複雑そうな表情で、今夜キリヤ様のお部屋に行くと言う話しを持って来た。オルガの表情が気になる。
でも夜にお部屋に呼んで下さると言うことは、キリヤ様にそんなに嫌われていないのではないかと期待してしまう。私はチリの花の栞を胸に抱いた。
夕食も終わり、今日はオルガの代わりにメイドさんが湯浴みを手伝ってくれた。念入りに体を清めて香油を塗り込まれる。そして初めの時に着た白い布を体に巻いて服のように仕立て髪をアップにすると、待っていたオルガが扉を開けた。
「様、私がキリヤ様のお部屋までご案内致します」
「有難う、オルガ」
オルガがやっぱり私から距離を置いている様に感じる。お風呂もメイドさんに代わって、服の着替えも支度もオルガは手を出さなくなった。きっとオルガも忙しいのだと思うのだけれど、それが少し寂しい。
「キリヤ様、様をお連れ致しました」
入りなよ、との言葉にオルガが扉を開けた。そして私を中へ促そうとして顔が強ばったのが見えた。
「オルガ?」
オルガの視線は部屋の中の一点を見詰めている。私はそんなオルガの様子を不思議に思って中を覗き込んだ。
「っ!」
私は上げそうになる声を咄嗟に手で押さえ込んだ。私の目の前にはベッドに仰向けになったキリヤ様と、その上に裸で跨る女の人の姿があった。美人の、私がキリヤ様へと持って来た蜂蜜を拾った女の人だ。
ベッドがギシギシと揺れて悲鳴を上げている。
「キリヤ様、これは…」
「オルガ、ご苦労様。君は下がっていいよ」
オルガの問いかけを遮って、キリヤ様が退室を促した。それでもオルガは私へチラリと気遣うような視線を向けて戸惑っている。
「オルガ、聞こえなかったの?僕は出て行けと行ったんだけど?」
キリヤ様の声が低くなった。怒りの気配に顔色を青くしたオルガはそれでも何かを言おうとしたのだけれど、唇を噛んで礼をすると扉へと向かった。
扉を閉めるオルガと視線が重なる。謝罪するような、私を気遣うような。そんな目をしていた。
「っ、はぁっ、あんっ…キリヤ様…」
虫人の女の人が艶っぽい声を上げて腰を振る。その尻を揉みながら、キリヤ様がニヤリと口の端を上げた。
「独りで寝るのは寂しいでしょ?そこで寝れば良いよ」
示されたそこは部屋の隅に置かれた大きなクッションだった。