第4章 虫の王
「オルガ!オルガ、オルガ!」
私の声に反応して扉を開けたオルガに飛び付いた。震える手でしがみついて、恐怖を堪えるように胸元に顔を埋める。
「っ、様?!」
驚いたオルガが戸惑いの声を上げる。私は泣きそうになるのを必死で堪えた。
「様、何かあったのですか?!」
オルガが私の肩を掴んで離し、顔を覗き込んでくる。私は荒い呼吸を調えながら、背後を振り返った。でも、先程の場所には既に誰も居なくてただ私が手にしていた本が床に落ちているだけだった。
「さっき、さっきそこに…」
振り返ってオルガに先程あった事を言おうとした目の端に誰かの姿が映った。
あれは、キリヤ様…
一瞬目にしたキリヤ様のお顔は眉間に皺が寄っていて、怒っているような悲しんでいるような、そんな表情に見えた。
「キ……」
名前を呼ぼうとしたのだけれど、キリヤ様は私を憎々しげに睨み付けた後踵を返して足早に去ってしまった。
「様?大丈夫ですか?」
オルガが心配そうに顔を覗き込む。私はキリヤ様に睨まれた事がショックで、オルガに直ぐに返事が出来なかった。
「様?」
「あ…うん…ごめん、何でも、無い…」
結局、私は何も話せないまま。書庫に居るのも怖くて本を数冊借りてお部屋で読む事にした。
あの時に見たキリヤ様は、何だか凄く怒っていた。もしかして、私があの男の人に抵抗したから?だからキリヤ様は怒ったの?あの男の人の行動はキリヤ様の指示なの?
キリヤ様はそんな事をしないと信じたい。でも、キリヤ様があの時に怒ってらした理由が他に思い当たらない。
お部屋で本のページを開いてみても、キリヤ様の事ばかりが頭に浮かんで文字が頭に入って来ない。私は諦めて本を閉じた。
でも何かしていないと落ち着かなくて、本を読む代わりにオルガに頼んで揃えてもらった道具で押し花を栞にする事にした。
栞を作りながら、ポトリと目から雫が落ちた。お爺さん、お婆さん…私はどうすれば良いのかな。キリヤ様の事が私には分からないよ。私、嫌われてしまったのかな。でも、もし本当に嫌われてしまったのなら…
「お爺さん、お婆さん…私、帰りたいよぉ」
私はこの世界に来て初めて弱音をはいた。
そんな私にキリヤ様からお声がかかった。それは、夜自分の部屋に来る様にとの命令だった。