第4章 虫の王
そっぽを向いているキリヤ様の頬が僅かに赤く染まって見えるのは私の見間違いかもしれない。でも私は嬉しくて、もっとお話ししたくてその場に座り込んだ。
「な、何勝手に座ってるのさ?!」
「だって、見下ろすと失礼かなと思ったので…」
何だろう、今のキリヤ様は怖くない。そんな雰囲気を蝶たちも感じたのかまたヒラヒラと側へ飛んできた。今度は沢山過ぎることも無く、蝶たちも距離を置きながらヒラヒラと舞っている。
「蝶たちとお話ししてたんですか?」
指を差し出すと、そこに蝶が止まった。忙しなく動かしていた羽根を休めるようにゆっくりと羽ばたく。とても可愛らしい。
「まぁ、ね…」
「お話し出来るなんて凄いですね!あ、この子は何か言ってますか?」
ちょっと遠慮がなさ過ぎるかな、とも思ったのだけれど気になったしせっかくだから聞いてみた。
「…良い匂いだ、と…」
「はい?」
答えてくれたキリヤ様の声は凄く小さくてしっかりと聞き取れなかった。だから聞き返したら、キリヤ様に怒られてしまった。
「だから…っ、て何で僕がお前にそんな事教えないといけないのさ?そもそも、その格好は何なの?!」
格好と言われて私の服装を見た。ブルマーに体操着に赤い鉢巻き…だけれど、何か悪かっただろうか?
「動く度に胸が…」
「胸?」
「っ!!」
訳が分からず聞き返すと、キリヤ様が急に立ち上がった。そして私に背を向けて早足で歩き出す。
「キリヤ様!」
キリヤ様を怒らせてしまったと私は後悔した。でも、キリヤ様は私の声に足を止めると僅かに振り返った。
「そんなに好きなら、この花部屋の花瓶にでも飾れば?」
それだけを早口で残して、さっさと立ち去ってしまった。
私は何が起こったのか理解出来ずに目を瞬いた。でも、キリヤ様が私にこの花をくれると言ってくれた事は理解出来た。
「えへ、えへへ…」
私は嬉しさにまた顔が緩むのを止められなかった。少しはキリヤ様に近づく事が出来たかな。このまま仲良くなれれば良いな、と花の匂いを大きく吸い込んだ。
その後、私は何本か花を貰って帰った。部屋に飾る分と後は押し花にしたかったから。
オルガからこの花がチリと言うキリヤ様がお好きな花だと教えて貰った。押し花はオルガに任せれば直ぐに出来上がると言うので甘えることにした。