第4章 虫の王
「はっ、はっ…」
オルガからお城の外に出てはいけません、と言われたのでお庭を借りてその回りを走る事にした。
「はっ、ほっ、はっ、ほっ…」
とっても走りにくい。この世界には基本ブラジャーと言うものが無くて、布で胸元を縛ってはみたものの苦しかったのでさっき少し緩めてみた。呼吸は楽になったのだけれど、今度は胸が安定しなくて走ると胸が揺れて走りにくい。
「はっ、はっ…」
オルガが何故か顔を真っ赤にして私から視線を外した。その前を私は必死に走り抜ける。にしても、同じ場所をぐるぐると走っているだけでは面白く無い。ちょっぴり飽きてしまった私は目に入った細道を奥へと進む事にした。
「わ、ぁ、素敵」
崖に掘られたこのお城には、ちゃんとお庭なども造られている。そして今走っている所は花が溢れんばかりに咲き乱れていた。私は足を止めて周囲を見回す。珍しい花を覗き込むと、そこで休んでいたのか蝶が飛び立った。
「ご、ごめんなさい」
休んでいた所を邪魔してしまったみたい。謝ると蝶は構わないよと返事をするかのように私の周りをヒラヒラと一回りしてから飛んで行った。
よく見ると、虫達が葉の裏や花の中で休んでいる。私は邪魔をしてはいけないと距離を取った。
「ごめんなさい、お邪魔しました」
小さく告げて出来るだけ静かに走り出した。
「はっ、ほっ…」
更に奥へと足を進める。すると開けた場所に一種類だけ、大量に咲いている青い花を見付けた。甘くてスッキリとした柑橘系の香りがする花畑。そこには沢山の蝶達が戯れるようにヒラヒラと宙を舞っていた。
「ははっ、解ってるよ。今度はもっと沢山持って来てあげるからさ」
そこには花畑の中に座るキリヤ様が居た。私が見た事も無い優しい笑顔で、指先に止まる蝶へと話しかけている。
「しょうが無いでしょ?僕だって色々と忙しいんだよ」
蝶に囲まれて表情を緩めているキリヤ様は、昨日見たキリヤ様とは別人みたい。それだけ柔らかくて優しい感じがした。
そんなキリヤ様から目が離せなくて、気が付くと私は沢山の蝶に囲まれていた。
「きゃあ!」
大群と言ってもいいそれに驚いて声を上げるとキリヤ様が弾かれたようにこちらを見た。目が合うと、とても驚いた様子で目を見開いた。
そして優しい表情がみるみる不機嫌なものへと変わったのだった。