第4章 虫の王
「うぅー……」
私は逃げる様に部屋から出ると唇を噛み締めて、部屋への道を急いだ。
頭の中はグチャグチャで、どうすれば良いのか分からなくて混乱していた。
「様?」
途中で擦れ違ったオルガに呼ばれたけれど、私は足を止めることが出来なかった。部屋に駆け込んで扉を閉める。そしてベッドに飛び込むと、私は枕に顔を押し付けた。
そうじゃないと大きな声を上げて泣き出してしまいそうだったから。
「っぐ、ふぐっ、ふうぅ…」
「様っ?」
オルガが私の様子を心配したのか扉を叩く。私はそれに答えることが出来なかった。
「様?様大丈夫ですか?」
扉の向こうでオルガが心配してる。ちゃんと返事をして、何でもないよ、大丈夫だよって言わなくちゃ駄目なのに今口を開くときっとオルガに泣きついてしまうから。何も言えなかった。
私はただだまってベッドに顔を埋めて堪えた。そして泣きつかれた頃、何時の間にか眠りの中へと落ちていった。
草の香りがした。雨上がりの芝生の、湿った土と緑の混じりあった香り。落ち着く香り。
「何…、顔…不細工…けど」
誰の声だろう、その人の手が汗で張り付いた私の前髪を優しく梳いてくれた。
「─様、もう…せ…」
「煩いよ…して、惚れ……」
内容が頭に入って来ない。
「─は、僕の……」
「もち…す、私はただ……」
何を話しているか分からないけれど、少し寒さを感じていた体に柔らかくて温かな掛け布団をかけられ、優しく頭を撫でられる。それが心地よくて表情が緩んだ。
「有難う、ござ、ま…」
誰か分からない。それに多分夢の中の様な気もする。でも優しくされて嬉しかったからお礼を言った。
今日はとっても疲れてしまったの。泣いちゃいけないと思ってるのに、泣いてしまった。
お爺さんとお婆さんにも泣き虫だから心配だと言われて泣かないように頑張ろうと思ってるのに、なかなか上手く行かない。
「がんばり、ます…お爺さ、お婆さ…」
そこまで口にして意識が闇に沈んだ。
私はお爺さんとお婆さんの夢を見た。夢の中で私は何時もの家で生活して、学校に通っていた。幼馴染みと一緒に学校へ行って、勉強をしてお弁当を食べる。
家に帰ると、お婆さんのお手伝いをしてお爺さんが帰ってくるのを出迎える。
凄く懐かしい、幸せな夢を見ていた。