第4章 虫の王
男が私の下半身に鼻を押し付けて大きく息を吸った。私は足を固く閉じて嫌悪感に堪える。
「うう、やだよぅ…」
男は私の股間に鼻を押し付けたまま、何度も深呼吸をする。
「ん、やはりここですなぁ」
キリヤ様ここですぞ、と得意気にキリヤ様に報告する男に唇を噛み締めた。男が私の足を掴んで割ろうとする。私は必死で抵抗した。
暴れる私の肘が袋に入っていた蜂蜜の瓶にぶつかった。丸い瓶はそのままコロコロと転がっていく。
キリヤ様は興味無さそうに酒を煽り、その脇に侍る虫人達は私と男の行為を余興か何かのように楽しげに眺めている。
その一人が蜂蜜の瓶に気付いた。
「あら、あれ何かしら?」
席を立って転がった蜂蜜の瓶を拾い上げる。そして光にかざして眺めると鼻で笑った。
「やだ、蜂蜜ですって。キリヤ様、見て下さいな」
女の人は拾った蜂蜜の瓶を楽しそうにキリヤ様の元へと持って行く。キリヤ様と話すきっかけが出来たのが嬉しいのか、女の人は今まで一番キリヤ様の近くに侍っていた女の人を押し退けた。
私の持って来た蜂蜜…
キリヤ様は蜂蜜の瓶をチラリと見ると、それを持ち上げた。
「蜂蜜がお好きなんて王妃様は子供ですわね」
その言葉にまたキリヤ様を除く虫人達が笑った。その合間もキリヤ様は無言で蜂蜜の瓶を眺めている。
「ほら王妃様、臭いの元を探すのです。協力して下さいませ」
抵抗した足が震えて段々と男の人の力に負けてしまう。私の足を乱暴に押し開いた男は頬を上気させてべロリと舌なめずりをした。その行動にゾワリと産毛が逆立つ。
「この、この私が王妃様の臭いの元を清めて差し上げます…舐めて、吸って…き、綺麗に…」
興奮した男の様子に寒気が走る。
「やだ!いやぁ!」
助けて、誰か助けて!
叫んでも皆がただ楽しそうに笑うばかり。
男の顔が近付いて長い舌がべロリと覗いた瞬間に、何故か男の体が横へと飛んだ。床を転がる男から開放されて、私は慌てて足を閉じて体を丸めた。
泣きそうになるのを堪えて見上げる。
「邪魔」
そこに立っていたのはキリヤ様だった。キリヤ様は私に目を向けないまま、振り返ると蜂蜜の瓶を持って来た女を呼んだ。
呼ばれた女は歓喜の声を上げてキリヤ様に駆け寄る。
「お前、飽きたから部屋に帰っていいよ」
キリヤ様はそう私に告げると、女の人の腰を抱いて部屋を出ていった。