第4章 虫の王
あの後、手当をしようとしたらオルガは大丈夫ですからと手当をさせてくれなかった。何処と無くオルガが私から距離を置いている様に感じる。
少しは仲良くなれたかなと思ったのに…
私は湯を浴びた後、オルガに白く透けたドレスを着せて貰った。胸元と下腹部のみが布が重なって中が見えなくなっている。ブヨブヨと言われたから余りキリヤ様に見られたくないのだけれど。
それでもオルガが用意してくれたものを大人しく身につけた。そして大きく空いた首元に金のネックレスをかけられた。青く輝く大きくて綺麗な石の嵌ったそれはとても値打ちのあるものだと一目でわかる。
そして揃いの青い石の耳飾り。
「オルガ、私こんな高価なもの付けられないよ」
そう言ったのだけれど、オルガは静かに「キリヤ様のご命令ですので」と口にした。
私は髪を上へと纏められ、綺麗に着飾った姿でキリヤ様の待つ部屋へと案内された。持って来た蜂蜜の瓶が入った袋を抱え直す。
「こちらです」
オルガが恭しく頭を下げた。一歩下がるオルガに私は深呼吸をしてから扉をノックした。
「です」
入りなよ、と中からキリヤ様の声が聞えて扉を開けた。開けた途端、中から女性の声が聞こえた。中には今朝見た虫人達がまた揃っていた。
私の体が自然と強ばる。
「し、つれい、致します…」
声が上擦ってしまった。そしてもう少し中へ進もうとして止められた。
「待って。悪いけど、これ以上近付かないでくれる?臭いから」
「っ!」
私は言われた事に唇を噛み締めた。「ひどーい」と声を上げながらも楽しそうに笑う虫人達。私はギュッと蜂蜜の入った袋を抱き締めた。
「酷く無いよ。一応僕の妃なんだしさ、独りじゃ寂しいだろうと思って食事に呼んであげたんだよ」
キリヤ様が手を叩くと、メイド姿の虫人が食事を運んで来た。それを扉の直ぐ側へと置く。キリヤ様から遠く離れた場所だ。きっと私の臭いがしないように。
キリヤ様の言葉に虫人の女の人が「お優しい!」などと声を上げている。私は内心、何処が優しいのだろうと疑問に思いながらメイドさんが案内してくれた遠く離れたクッションが有る場所に腰掛けた。
それ以来、キリヤ様は私を居ないものとして扱い虫人の女性と楽しく会話していた。私はそれを尻目に、黙々と食事を口に運んだ。
味は余り良く分からなかった。