第4章 虫の王
部屋に戻って私は窓辺に座りながら、光を受けて輝く蜂蜜の瓶を見詰めていた。キリヤ様のものは色の濃い紅茶の様な色をしていて、オマケにと付けてくれた私のものは新製品らしく中に何やらキラキラと光るものが入っていた。
「キリヤ様、喜んでくれると良いな」
これで少しでも話すきっかけになれば嬉しい。私は城に戻って来てオルガに色々とキリヤ様の事を聞いた。
キリヤ様が若くして、数多くいる王子から王座を獲得した事。外交もキリヤ様が仕切るようになって円滑に回る様になったこと。
蜂蜜が好きで実は甘い物が好きな事。
そしてチリと言う花が好きな事。
その花は甘いけれど、甘ったるい訳ではなく爽やかな柑橘系の香りがするらしい。私はそれを聞いていい事を思い付いた。その花の香水とか無いのかな?それを身につければ、キリヤ様も私の事を臭いと言わないんじゃないかな?
そう思って提案したのだけれど、盛大に眉を潜めたオルガに何故か却下されてしまった。
そして、体がブヨブヨの件は運動をする事にした。確かに獣の国では沢山食べたし運動不足を感じていた。
それについて提案すると、オルガは大きく頷いてくれた。
「体にも良いですし…良いでしょう。明日までに動きやすい服を用意させます」
と請け負ってくれた。臭いはどうするか考えるとして、取り敢えず出来る事からやっていかなくちゃ。
夕食時が近付くと、扉がノックされた。
「はい!」
返事をすると、頬を腫らしたオルガが部屋に入って来て驚いた。私は慌てて椅子から立ち上がりオルガの側に駆け寄る。
「どうしたの?!」
側で見たオルガの頬は強くぶつけたのか赤く腫れて内出血をしているのか紫の色まで混じっていた。
「痛い?大丈夫?」
頬に触れようとして、オルガが逃げる様に身を引いた。その仕草に触られたくないのだと判断した私は、大人しく手を引いて周囲を見回した。
「て、手当てしなきゃ…」
この部屋に手当て出来る物は無いだろうかと見渡していた私に、オルガが言いにくそうに顔を僅かに伏せた。
「キリヤ様が…」
「え?」
「キリヤ様が様も一緒にお夕食をと…」
言われた言葉につい私は動きを止めてしまった。オルガは私から視線を逸らしたままだ。その不自然なオルガの様子に気付かず、私は蜂蜜をキリヤ様に渡せるチャンスかもしれないと内心喜んだのだった。