第4章 虫の王
私のフードを掴もうとした男の手をオルガが叩き落とした。
「ってぇ!何すんだこのガキ!」
「様少し離れていて下さい」
抵抗されて三人が殺気立つ。三人は明らかにオルガより体も大きくて歳上で強そうに見えた。
「オ、オルガ…」
「大丈夫ですから」
安心させるように目元を緩めたオルガに押されて距離を取った。愉快そうに笑いながらオルガを囲む三人に体が震える。
「このガキを殺して直ぐに良い思いさせてやるからな?楽しみにしてろよ?」
その言葉に嫌悪感が走り寒気がした。オルガが目を細めると、羽根を羽ばたかせる。
「…貴方達はこの方を誰だかご存知で無い」
バサバサと音を立てて羽根を動かすオルガ。緩やかな風が三人へと向かい流れる。
「誰って、美味そうな匂いの雌だろうが!」
吠えた男の横で、急に一人がドサリと地面に倒れた。驚いた男が倒れた男に駆け寄る側で、また男が倒れる。喉を掻き毟るようにして苦悶の表情を浮かべた男に最後の一人が焦り出した。
「な、何しやがったてめッ…ぐっ」
オルガに飛びかかろうとした男がオルガを掴む前に力無く地面に膝を付いた。
「ぐ、ぐげぇ…」
泡を噴きながら喉を掻き毟る男を見下ろしながら、オルガが羽根の動きを止めた。
「この人はキリヤ様のお妃様ですよ…と、もう聞こえてませんか」
地面で痙攣している三人を見下ろしていたオルガが私の方を向いた。何があったか分かっていない私を安心させる為か、その表情は僅かに柔らかい。
「様大丈夫ですか?」
「っ!」
私はオルガに抱き着いた。驚いて数歩下がりながらもオルガは私を抱きとめてくれた。オルガに何か有ったらどうしようと不安で仕方が無かった。本当に無事で良かった。
「ご、ごめんねオルガ」
「…良いんですよ。それよりキリヤ様に気をつけろと言われていたのに…申し訳ございません」
覗き込んだオルガが涙を拭ってくれる。キリヤ様が、と聞こえて不思議に思ったけれどオルガは苦笑いを浮かべるだけだった。
「やはり外を歩くのは難しいですね。残念ですが戻りましょうか」
私のせいで迷惑をかける位ならと帰ることに同意した。
オルガが懐から取り出した瓶の蓋を開けると、小さな虫が一匹飛び立っていった。あれは一体何だろう?
「さぁ、行きましょうか」
私は頷いてオルガについて歩き出した。