第4章 虫の王
「様、良ければ城下を案内致しましょうか?」
オルガの申し出に私は食後に飲んでいたハーブティーのカップから顔を上げた。
「良いの?」
オルガの申し出に驚いた。オルガは驚いた私の姿に苦笑いを浮かべ皿を片付けながら頷いてくれた。
「ええ、様はキリヤ様のお妃様です。この国の事を知って頂かなくては」
「でも、その…」
何と無く気になって服を引っ張って臭いを嗅いでみた。やっぱり私には何の臭いもしない。先程のお風呂場にあったソープの良い匂いがするだけだ。
「私、臭くない?」
扉の外に控えていたメイドに後の片付けを任せると、オルガはクローゼットからフード付きの長めの上着を取り出した。そしてそれを広げて、そっと私にかけてくれる。
「臭くなんて有りませんよ。様は、良い匂いがします」
「本当?」
「ええ」
しっかりと頷いてくれたオルガに安堵の息を吐き出した。上着のボタンを閉じてオルガがフードを頭にかけてくれる。
「でも、危ないので顔は隠しておきましょうね」
私はオルガの言葉に頷いた。
「わあぁ…」
私は感嘆の声を上げた。
「様」
「あわわわ」
慌てて口を閉じてオルガの隣に戻った。城下に遊びに来るかわりにオルガから離れない事と、目立たない事。そんな約束をしていた。それを思い出してフードを深く被り直した。
見渡す限り虫ばかり。外見が完璧虫の人も居れば、キリヤ様やオルガの様に人間と虫が混ざった様な外見の人も居る。皆が人間の様におしゃべりして物を売って…
「そこの虫さん、蜂蜜はどうだい?甘くて美味しいよ?うちの蜂蜜は絶品さ!」
恰幅の良い蜂の黄色と黒の縞を身体に持つおばさんに声をかけられて足を止めた。そちらを見てみると、つやつやの蜂蜜が瓶に入って並んでいた。色がそれぞれに違うのは花の種類が違うからだろうか。
「ほら、味見」
差し出されて戸惑った。私はオルガを窺うと頷いてくれたので、差し出された木の棒を受け取ってペロリと舐めた。
「美味しいっ!ねぇ、オルガ」
オルガにも、と蜂蜜の棒を差し出した。それを受け取ったオルガも口へと含む。
「ん、流石に美味いですね」
「だろう?うちのはキリヤ様も大好きなんだよ」
おばさんが得意気に胸を張って教えてくれた。