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人外王の花嫁

第4章 虫の王


「様、お止め下さい!」

もう一度浴室に案内して貰った私は、布を取り去り中へと入ると洗い場スペースに急いだ。備え付けのソープを濡れた布に沢山付けて泡立てるのももどかしく、肌に押し付けた。
必死でゴシゴシと擦る。何処から匂いがするのか分からない。でもきっとしっかり洗ったら臭いも取れてくれるはず。

「しっかり、もっとしっかり洗わなくちゃ」

「様!そんな洗い方では肌を痛めます!」

オルガが戸惑って私をオロオロと見ている。強く何度も擦った腕は赤くなってしまっているけど、臭いが私には分からないのだから手を抜くわけにはいかない。

「でも、ちゃんと洗わなくちゃ臭いって…」

ソープの花の匂いが私を包み込む。とても良い匂い。でも私はそんなのを楽しむ余裕も無くて、何度も何度も首筋やら腕やら手当たり次第に擦った。

「止めて下さい!血が…」

必死で擦り過ぎたのか爪が当たった事に気付かなかった。血が滲んで白い泡に交じる。それでも手を止めなかった。先程の自分を蔑む目を思い出して、また泣きそうになってしまう。それを堪えながら一生懸命に体を擦った。

「これ以上擦ったらっ」

見かねたオルガが私の手を掴んだ。私はその手から逃れようと力を込める。

「離して!離してオルガ!」

「様!!」

叱るように名前を呼ばれてビクリと体を揺らした。体から力が抜ける。我に返った私はオルガへと視線を向けた。真剣な顔で私をじっと見ている彼にとうとう我慢が出来ずにポロポロと涙が零れた。

「オ、ルガ…オルガ…私って臭い?キリヤ様に嫌われちゃう位に、臭いの?体もブヨブヨだって、私、私っ」

うわぁん、と我慢出来ずに声を上げて泣いた。そんな私をオルガがかき抱いた。そして強く抱き締めてくれる。

「私は…私は、様を臭いとは、思いません…貴女の体だって、私は…」

凄く小さかったけれど、呟いたオルガの言葉に私はまた涙が込み上げて、盛大に泣いてしまった。




落ち着くまで抱き締めてくれたオルガは、私が泣き止むと慌てて体を離した。そして顔を背けながらも湯で流し、体を拭い服を着せ治療をしてくれた。もうその時には血は止まって肌に僅かな痕が残っただけだったのだけれど。
私は優しいオルガの手付きに大人しく身を任せたのだった。
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