第4章 虫の王
「ほら、早く足を開いてこっちに見せなさいよ!」
キャハハ、と笑う虫人の女性達。男の虫人達も見せろ見せろと囃し立てる。
「そんな…」
そんな事したくないよ。私はキリヤ様へと視線を向けた。キリヤ様は何も言わずに私の事をじっと見詰めていた。見せろ見せろ、早く見せろ、と虫人の声が大きくなる。
これもキリヤ様の命令なのだろうか。何も言わないキリヤ様から目線を外すと、私はその場にゆっくりと屈んだ。
「ノロマね。芋虫の方がまだ速いわよ」
女の虫人の声に笑いが起こる。
悔しい。
それでもキリヤ様の命令であるなら従わなければならない。私は腰を下ろして膝を抱えると、足に手をかけた。手が震える。私は零れそうになる涙を泣くものかと必死で堪えた。
ゆっくりと足を開きかけたその時、林檎のような果物が飛んできて私の側の床に落ちた。驚いて飛んで来た方へと顔を向けると、眉を潜めたキリヤ様が見えた。
「…気分が悪い」
ポツリと言った言葉が理解出来なくて私は呆然とキリヤ様を見詰めた。すると、キリヤ様がもう一つ果物を取ると勢い良く私に投げ付けた。
「きゃあ!」
果物は、私の足元すぐ近くに落ちて砕ける。
「お前が臭くて気分が悪いって言ってんの!早くどっか行ってよ!」
「っ!」
早く出て行け!とまた果物を投げるキリヤ様に、私は慌てて脱いだ服を掻き集めて扉へと走った。そしてそのまま扉を出た。
後ろ手で扉を閉める。服を抱き締めて力無く屈み込み体を丸めた。
「っ、っ…」
泣くもんか、泣くもんかと今にも零れそうな涙を目を見開いて堪える。だって瞬きしたら涙が零れそうだったんだもの。扉の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえて来る。明らかに私の事を笑っていた。
その笑い声が大きくなったかと思うと、オルガが私を追いかけて部屋から出て来た。
「様…」
オルガが戸惑った様に私を呼んだ。私は立ち上がって、布を適当に体にグルグルと巻き付けオルガに向き直る。
「オルガお願い。私、お風呂に入りたいの」
キリヤ様が私を臭いと言うのなら、この臭いを何とかしなくちゃいけない。
「お風呂には先ほど…」
「だって、私変な臭がするの。だから…キリヤ様に嫌われない様にしなくちゃいけないの」
そんな私にオルガは何か言いかけたのだけれど、結局何も言わずもう一度お風呂場に案内してくれたのだった。